青年パリスの元に、全能の神ゼウスの妻ヘラ、知恵と戦いを司る神アテナ、愛と美の神アフロディーテが現れ、誰が一番美しいかと尋ねられた。「私を選べば、世界一の美女を授けるわ」と言ったアフロディーテを指名し、絶世の美女ヘレネを娶ることが出来たのだが、実は彼女は既婚者で…と、何とも人間臭さ満載のギリシャ神話が昔から好きだった。
三千年以上の歴史を誇り、女神アテナを守護神とする都市アテネ。そのシンボルでもあるパルテノン神殿は、写真や映像で見て想像していた通りのスケールと美しさ!すぐ横にある小振りなエレクシオン神殿も、芸術的で見応えがある。同じ神殿でも柱が円柱ではなく、纏っているスカートのひだが立体的でゴージャスな印象を与える女性像なのだ。「ギリシャ彫刻のような美しさ」という表現は、まさしくこれだと感じた。
食は、地中海に面しているだけありウナギやタコ、牡蠣を使った魚介料理が抜群な上、中心部にある“カラマンリディカ・トゥ・ファニ”では干し牛肉パストゥルマやソーセージなども美味しく、ギリシャ料理はハズレ無し。また、以前松脂を加えた伝統的白ワイン“レッチーナ”を紹介したが、アルコール度数40%、アニスやクローブなどのハーブで香り付けされ癖が強い“ウゾ”も好きだ。こちらは共感してもらえる保証はしない。
アテネでは、人生初の経験もした。シンタグマ広場の近くでジェラートアイスを頬張っていると、突如ダダダダッ!と大勢の足音が聞こえ、白いヘルメットと透明の防弾盾を持った警官隊が押し寄せてきた―経済危機に対する大規模デモが起きていたのだった。風に乗ってきた催涙ガスを浴び、玉ねぎを刻んでいる際の五倍くらいの目の痛みに襲われ、旅先で治安情報の収集を怠ってはいけないと痛感。
冒頭の神話を元にした“トロイ”という映画があり、ブラッド・ピットやオーランド・ブルームが出演している。これまたギリシャ彫刻のような美しさなので、ご覧になっていない方はぜひ。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/ここ1年半の自粛でお酒を飲む量が激減。旅に出られればまた、楽しく飲めるのかなぁ…早く異国の地で酒場をハシゴしたいです。
(日刊サン 2021.07.02)