「インドに行ったら価値観変わりますよ!」。数年前、ヘアサロンで美容師に熱弁された。その類の体験談はよく耳にするが、実際のところどうなのだろう?
知人にインド哲学者がいて、夫が死ぬと妻も一緒に焼身自殺をする風習があること、空港を降りた途端に物乞に囲まれたなど幼い頃に衝撃的な話を聞いていたので身構えていたが、旅行中に物騒な雰囲気を感じる事はなかった。移動中鳴り止まないクラクションには辟易としたものの、子ども達と触れ合う機会があり「写真撮ってー!!」と屈託なく笑う姿にはとても心が洗われた。
観光では、1500年の時を経ても錆びない不思議な鉄柱アショカ・ピラーや、イスラム様式の影響が色濃く独特な装飾のアンベール城、望遠鏡がない時代の天体観測施設ジャンタル・マンタルなど北部の世界遺産を見て回り、その中で最も印象的だったのは世界一美しい霊廟と呼ばれる“タージ・マハル”。17世紀に在位していた皇帝が亡くなった王妃のために莫大な費用と年月をかけて造らせたもので、白亜の美しさは圧巻、愛の大きさが窺い知れる建築物だった。人気アニメ“セーラームーン”に登場する月の王国の宮殿ムーン・キャッスルのモデルとも言われており、比較すると確かに似ていたしロマンチックな背景も含めアニメのストーリーにぴったりだと感じた。
また、楽しみにしていたのが本場のカレー。牛はヒンドゥー教の神様の乗り物であり神聖視されているのでビーフカレーは存在しないらしく、代わりにマトンやチキン、ヒヨコ豆や野菜が具材で出てきた。おすすめはよく煮込まれて柔らかくなったマトンのカレー!なのだが、日本式カレーとは違い油分と香辛料がかなり多く、暑さで弱っている胃腸には少々厳しかった。
価値観が変わらなかったのは、ツアー参加で安全が保障されていてディープなインドの姿を見なかったからかもしれない。今度は遺体が流れる中で洗濯物をするというガンジス川や、UFOが頻繁に現れるという噂のヒマラヤ付近にも行ってみたい。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/帰国してから盛大に焼肉を食べました。食べちゃダメと言われると飢餓感が…もちろんいただく命に感謝しつつ。
(日刊サン 2021.04.16)