【竹下聖のラグビーコラム】ラグビー女子日本代表、つよく、美しく、燦燦と
夕方6時を過ぎても気温35度の埼玉・熊谷・・・。夕焼けに染まりゆく熊谷のスタジアムで、5年ぶりの国内開催となった女子ラグビーの代表戦を取材しました。
桜フィフティーンが南アと激突
男子代表と同じ赤白のジャージをまとった「桜フィフティーン」は、はるばるアフリカの最南端から来日した南アフリカ代表と激突。開始5分過ぎ、日本代表がSO大塚のトライで先制しますが、その後は野性味あふれる南ア代表が、フィジカルプレーで圧倒。前半32分過ぎに、バネのようにピッチを疾走するWTBマリンガに立て続けにトライを許し、5―12と7点のビハンドで折り返します。
男子と全く同じ横70メートル、縦100メートルのグラウンドで男子と同じ大きさの5号球を使う15人制の女子ラグビー。後半日本は32歳のベテランCTB鈴木彩や、キャプテンのFW南らを投入。終了の笛の直前に前回W杯キャプテンのFW斎藤のトライで5点を返しますが、10―20と惜敗しました。
目線は10月のW杯の舞台へ
1週間前の7月24日に岩手・釜石で行われた南アとの初戦に続く連勝を狙った日本でしたが、要所でミスもあり、南アにはじき返された格好。強豪の元カナダ代表で、日本の強化のために招聘されているレスリー・マッケンジー監督は「自分たちを信じすぎた部分があった」と反省を口にする一方、「W杯の32人を選ぶためにそれぞれに適切なプレー時間をあげたい。(国内の代表戦で)それを自国で与えてくれたことに感謝したい」と目線を10月のW杯本番に向けました。
女子ラグビーの魅力とは
7月、8月にかけて国内で4試合ある女子の代表戦(8月20日、27日はアイルランド戦)は、10月にニュージーランドで行われる女子W杯の“壮行試合”の位置づけです。本来2021年に予定されていたW杯はコロナの影響で1年延期され、桜フィフティーンにとっても満を持しての出陣となります。ただ、五輪種目の7人制のラグビーと違い、やや注目度の落ちる15人制の女子ラグビー。存在は知っていても、私自身今回が初めての観戦でした。
ヘッドキャップからポニーテールをなびかせ、味方とガッチリ肩を合わせスクラムを組む彼女たち。115キロを超える南アの選手の分厚い胴に、タックルで突き刺さり、吹き飛ばされても次の瞬間にはピッチに立ちあがる彼女たち。一緒に見ていた男性記者は「俺だったらひとたまりもない」とボソッ。頬を紅潮させ、ひた向きに挑み続ける姿を目の当たりにし、取材者の立場を忘れて目頭が熱くなる場面もありました。
歴代女子アスリートのDNA
身長も体重もバラバラの15人が同じピッチに立つ競技で、一番小柄なSHの阿部は147センチ、53キロ。大柄なFWでも170センチ台と世界と比すと大きくはありません。けれど日本の女子スポーツで、五輪金メダル常連のお家芸は柔道、レスリング、そしてかつてはマラソン・・・。ラグビー女子の姿が、柔道48キロ級の女王・田村(谷)亮子や東京五輪金の阿部詩、鋭いタックルで3大会連続金のレスリングの吉田沙保里、そして42キロを笑顔で走り抜いたマラソンの有森裕子や高橋尚子に重なります。日本が世界に誇る歴代女子アスリートのスピードや激しさ、粘り強さのDNAが、桜の女子ラグビー選手の中に垣間見えます。
現在女子ラグビーの人口は上昇中で、2019年の発表では世界のラグビー人口270万人のうち1/4が女子選手で、17年の調査より28%も増えたとか。10月のW杯本番、世界ランク11位の日本は10月15日の第2戦で同ランク5位の格上の米国と対戦します。今や世界中で人気が集まり始める女子ラグビー。燦燦と輝く太陽のような強さ、冬を耐え抜く桜のような粘り強さを持つ彼女たちに、ぜひ注目してください。
東京・大手町発 マスコミ系働き女子のひとりごと Vol.49
(日刊サン 2022.8.12)
竹下聖(たけしたひじり)
東京生まれ。大学卒業後、東京の某新聞社でスポーツ記者、広告営業として15年間勤務後、2012年〜2014年末まで約3年間ハワイに滞在。帰国後は2016年より、大手町のマスコミ系企業に勤務。趣味はヨガと銭湯巡り。夫と中学生の娘、トイプードルと都内在住。
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