運命
“Bashert”ユダヤで「運命」をあらわす言葉。先日であったユダヤ人男性がふと口にされたこのことばがとても美しい響きで心に沁み渡った。
その日は創作前、あまりにいいお天気だったのでアートスタジオのまえにあるホテル1階外に夫アダムと座って日光浴を楽しんでいた。そこへやってきた一人の老人。杖をつきながらゆっくりのスピード。手には葉巻。オシャレな柄のシャツに高級な腕時計。洗練されたオーラが隠しきれないご老人。
だれとでも話しが始まるここニューヨークでの暮らし。
あっという間に仲良しになり、気づいたら1時間ほど話しに夢中になっていた。みんなひとりひとりに人生のものがたりがある。彼は83歳。もともとはチェコスロバキアの出身だと言う。ユダヤ人の彼。1才のときに両親と兄とともに祖国を離れて以来帰っていないそうだ。なにがあったのか?
そこには、“Bashert(運命)”のはぐるまがおおきくまわっていた。チェコスロバキアで父親がビジネスで大成功し、ユダヤ人家族として何不自由もない裕福な暮らしをしていたある日、友人が裏情報で極秘にナチスが連行するリストを確認したところ、リストには彼の家族の名前が入っていたとの連絡が。しかも、連行は「明日」だという。それを知ったのがすでに夕方。
他に連行リストに入っていたユダヤ人の裕福な友人たちにも連絡をとりあった。しかし、大半のひとたちは「うそじゃないか?」「その情報は本当か?」「今から逃げるなんてできない」そういって、動かなかったそうだ。
逃げるということは、いままで築きあげてきたそのすべてを置いて行くということ。高価な装飾品も努力して手に入れた家も財産も人脈も会社も、代々受け継いで来た家具もなにもかもぜんぶすべてをそこに残し、手に持てる必要最低限の荷物のみをもって今すぐ逃げる。
今ある豊かな生活の一切を置いて逃げる。話を聴きながら想像してみた。もし、わたしが同じ立場なら情報を信じるのか? デマかどうかもわかならい情報をたよりに今すぐ、会社や財産、大事な物を全部捨てて祖国を出ることができるだろうか?
彼のお父様。いままで苦労して築き上げてきた地位や会社よりなにより、家族の命を守った。デマかどうかもはっきり分からない情報だったけど、とにかく数時間後には家を離れていたのだそう。そこからイスラエルへと逃亡。その後、アメリカへ。
のちにわかったことは残ったみんな命を奪われたということ。ニューヨークで暮らしているとユダヤ系アメリカ人がたくさんいるので本当に起きたことを直接聞く機会がたくさんある。
運命。命を運ぶと書く。みんなひとりひとりにある命のストーリー。命をつなげてくださったご先祖様たち。その命のたすきを受け取り最先端で生かせていただいている私たち。
今日も奇跡を生きている。
私の旅ストーリー
大森 千寿
NY在住。香川県高松市生まれ。アーティスト・作家・アートセラピスト・米国NLP協会認定マスタープラクティショナー・現代レイキマスター。NY・ハワイ・日本の3箇所にアートスタジオを構え活動。著書に、amazon電子書籍「ハワイに不動産を購入して人生10倍楽しむ方法」「ハワイで聞いた! 32通りの生き方(第一弾)」「人生の冒険」がある。NYで新しい扉を開く2日間プログラムやニューヨーカーと行く穴場ツアー、アート最前線ガイドなど開催中。 www.chizuomori.com ameblo.jp/adamwestonart
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