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私の旅ストーリー

光と影

光と影

 あっという間に夏が過ぎていった。暑い! と感じる日が数えるほどしか記憶のない今年の夏、マンハッタン。もうすでにすっかり涼しく秋の気配を感じる。数日前よりニューヨークではワクチン接種証明を提示しなければレストランやジムなど屋内に入ることが制限されるようになった。本格的に実施されるのは来月半ばだが、刻一刻と状況は激変している。

 去年と大きく違うことは、観光客が再び戻ってきていること。人々の明るい笑い声が聞こえてくる。同時に、治安も悪くなり一歩外へ出ると緊張することも多くなった。

 ニューヨークの光。人を惹き付けてやまない吸引力。その一方で光が強い分、影が浮き彫りになる。光と影。太陽と月。上と下。左と右。この世は陰陽の法則で成り立っている。光があるから影があり、影があるから光が存在する。先日、まさにそのことを味わう経験をした。

 

 去年、突然なにものかに暴漢され大けがを負ったジャズピアニストの海野雅威さん。彼の復帰をブルーノートニューヨークで祝うことができたのだ。今の海野さんの奏でる音を聴きたいという衝動に駆られて即チケットを手配し、自転車をかっ飛ばす。その日は、ワクチン接種証明がないと入店できない最初の夜でもあった。

 ほぼ観光客で埋め尽くされた館内は超満員。会場では人々のたのしそうな声が響いていた。食事をしたりお酒をたしなんだり、みなと至近距離で会話をする人たちの明るいエネルギーが懐かしかった。マンハッタンでは公園、街角、いたるところで生のジャズを演奏している。しかし、屋内でこのような形でジャズを聴くのはいつぶりだろう。コロナ禍になって以来、初めてのことだ。いままで当たり前のようにしていたことがいつしか当たり前じゃなかったのだと気づく。まさに去年から何度も経験してきたことだ。

 満を持してついに演奏がはじまった。かの有名ジャズギタリスト、ジョン・ピザレリの隣でピアノを弾く海野さん。演奏がすすむにつれてわたしもリラックスして楽しむことができた。海野さんのピアノを弾く背中を眺めながら、時には目を閉じて音を聴いてみる。彼の奏でる音色の旋律をたどっているうちに、心にしまっておいた大切な思い出の宝箱をなんども開けたくなった。いや、開けてしまった。

 今まで復帰するまでの道のりを考えると想像を絶する。とてつもない底力を見せていただいた。大きな希望をいただいた気分だ。光のシャワーを浴びて心の元気を取り戻し、はやく創作に戻りたい気持ちになった。そんなはやる気持ちをふくらませながら、海野さんに挨拶をしたあと会場を後にした。

 

 ああ、何があっても生きているということは素晴しい。

 肌寒くなった、秋の気配を感じる涼しい夜風を浴びながら自宅へと向かう。自転車を漕ぐ一歩一歩が、何があってもへこたれないマンハッタンの力強い鼓動と重なるような気がして、なんだかうれしくなり軽快にペダルをこいだ。一漕ぎ、また一漕ぎ。

 今日もありがとありがとう。

私の旅ストーリー

大森 千寿

NY在住。香川県高松市生まれ。アーティスト・作家・アートセラピスト・米国NLP協会認定マスタープラクティショナー・現代レイキマスター。NY・ハワイ・日本の3箇所にアートスタジオを構え活動。著書に、amazon電子書籍「ハワイに不動産を購入して人生10倍楽しむ方法」「ハワイで聞いた! 32通りの生き方(第一弾)」「人生の冒険」がある。NYで新しい扉を開く2日間プログラムやニューヨーカーと行く穴場ツアー、アート最前線ガイドなど開催中。 www.chizuomori.com  ameblo.jp/adamwestonart

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