5月の雪
自宅待機になってはや2カ月が過ぎた。その間、自宅から出たのはほんの数回。食材を買いにスーパーへ向かったのと、銀行や郵便局など用事ででかけただけ。週に何度も接していた友人や仕事関係者たちとのパーティーも一切なしの生活。ここまでひとと触れていない生活ははじめて。
今まで生きてきて、ここまで自宅に閉じこもって生活をしたこと自体がはじめての経験だ。きっと、世界中でおなじような境遇の人たちがたくさんいることだろう。
そんななかで、1日のたのしみのひとつは窓からみえる外の風景をみること。バルコニーからの景色がいまのわたしにとって、世界のすべてになっている。
その小さな小さな、限られた世界のなかにも毎日、いや瞬間瞬間で刻々とみえる景色は変化していく。
ロックダウンになり、そらに飛行機を見かけなくなった。広い広いそらが、飛行機であれだけ大渋滞していた世界が、まるで幻想だったかのようだ。飛行機の変わりに、いまはタカがマンハッタンの大空を悠々と舞い、カモメがたのしそうに鳴きながら大きなそらをたのしんでいる。
自然はなんてダイナミックなんだ! 人間があたふたとしている間にも、刻々とつぎの季節へとむけて準備をすすめている。
そんななか、5月だというのに、ニューヨークに雪が降った。マンハッタンでこの時期の雪を記録したのは、1977年以来、実に43年振りのことだという。
母の日を前日に迎えた季節外れの雪。花を咲かせ終わった街路樹たちが、新緑のエネルギーあふれる緑に姿をかえていくなかで、白い粉雪がマンハッタンを舞ったのだ。
21階の我が家のバルコニーから、雪に包まれていくマンハッタンの様子をしばらくの間、ときを忘れてぼんやりと見つめていた。夏に向けての新緑の緑と、まだまだ冬が存在していることを忘れないでほしいと訴えているかのようなその白い雪が、同時に共存しているその、瞬間。それぞれの絶妙な、予期せぬ自然のアンバランスな組み合わせが、なんともいえない美しさを醸し出していく。その様子を、うっとりと見惚れていた…。
2020年は、はじめてづくしの未知の世界。「これでもか〜!」というほどに、予測不可能の未知なる道へと私たちを連れていく。
これからは、いままでなんとなくまかり通っていたようなフェイクの世界は淘汰されて、リアルのみが生かされていく時代になるだろう。
季節外れの雪が閑かに舞うマンハッタンの街をながめながら、ふとそんなことが心をよぎった。
私の旅ストーリー No.195
大森 千寿
NY在住。香川県高松市生まれ。アーティスト・作家・アートセラピスト・米国NLP協会認定マスタープラクティショナー・現代レイキマスター。NY・ハワイ・日本の3箇所にアートスタジオを構え活動。著書に、amazon電子書籍「ハワイに不動産を購入して人生10倍楽しむ方法」「ハワイで聞いた! 32通りの生き方(第一弾)」「人生の冒険」がある。NYで新しい扉を開く2日間プログラムやニューヨーカーと行く穴場ツアー、アート最前線ガイドなど開催中。 www.chizuomori.com ameblo.jp/adamwestonart