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【My Destination】第3章 「再挑戦」四度目の正直 Part2
(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、急きょ会社が経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。子会社での副社長経験を挟みつつ、経営企画業務全体を取り仕切る中、遂に悲願の株式上場承認が東京証券取引所(以下「東証」)から降りたのだった。
まず最初に断っておくと、上場承認イコール上場、ではない。上場承認後、上場日に提示される株価である「公開価格」を決定するロードショウと呼ばれるプロセスを踏まないといけない。これが結構厄介なものである。俗にプロ投資家と言われる人たち(証券会社、資産運用会社、ファンドなど)に対して会社の“売込み”を行い、その価値である株価を想定してもらう。投資家を一堂に集めた会社説明会を皮切りに、投資家を一軒一軒訪問していく。一日に約5社程度、これを二週間ほど朝から晩まで社長とCFOと共に繰り返した。
株価は、その会社の成長に対する期待値やすでに上場している類似企業の株価などを参考にして決定されていく。ベンチャーというと急成長的な響きがあるかもしれないが、「IT時代の町の電気屋さん」を創業のコンセプトに掲げていた我が社は、人手による血の通ったITサポートを生業としており、ITという単語はあるもののどちらかというと堅実な事業を行っていた。これが多くの投資家にとって投資対象としては魅力的に映らなかったようだ。彼らの言う魅力とは、リスクを伴ってでも急成長が見込まれるようなビジネスを指す。我々の事業は、事業が立ち行かなくなるようなリスクは低いものの、急成長の可能性もプロの目から見ると低いと見積もられていた。
とある女性ファンドマネージャーが本音を話してくれた。「社長さん。あなたの会社はとってもいい会社だと思うの。でも私はあなたの会社の株は買わない。あなたの会社は良い会社であるが故、ボラティリティ(値動き幅)が低いと見てるから。」
類似企業の株価という側面から見ると、類似企業だけでなく日本の証券市場に上場している多くの会社が株価で苦戦していた。その原因は長引く不景気である。いわゆるアベノミクスが始まる前、即ち民主党政権時代は日本の景気は冷え切っていた。そこに傷口に塩を塗るかのように東日本大震災が発生、日経平均株価も1万円を切るありさまだった。そのような環境下、我が社の株価だけが例外であるという確証は当然なかった。
社長、CFOそして私は、当社の公開価格決定は苦戦するだろうということを誰より承知していた。だから少しでも高く評価されるように努力を重ねてきた。しかし、突き付けられた現実は想定を上回るほど辛辣なものであった。
上場承認が降りてから眠りが浅い日が続いている。公開価格の仮決定日が目前に迫っていた。
(次回につづく)
No. 223 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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