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【My Destination】第3章 「再挑戦」IPO(株式上場)準備再び Part3
(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、急きょ会社が経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。その後メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。その中で一旦子会社の副社長を経験、2009年4月1日付でベンチャー企業に復籍した。
2010年8月のある日。勤務先の応接室にて2人の男性が深々と我々に対して頭を下げていた。彼らはみずほインベスターズ証券の当社担当者とその上司であった。“誠に申し訳ございません”の言葉しか彼らの口からは出なかった。目の前の光景を見て、3年前の悪夢が脳裏をよぎった。あの時は、上場申請直前で、週刊誌に“我が社の大株主の一社に黒い噂がある”とすっぱ抜かれ、それが理由で上場申請は見送られた。今度は、またも週刊誌が近年上場した会社の不正会計をすっぱ抜き、その不正を上場審査時に見抜けなかったみずほインベスターズ証券の審査体制に疑問を投げかけた。これが一社で終わったなら、みずほインベスターズ証券も“あの件はたまたまでした”と言い逃れが出来たかもしれないが、その後もう一社に不正会計が発覚し、同社も観念せざるを得なくなった。
実は、この事件は他人事には思えなかった。最初に不正会計で摘発された会社は、エフオーアイとう会社だったのだが、同社が上場する際に行った一般投資家向け説明会に、私も上司と共に勉強を兼ね参加したのだった。同社の社長の人の良さそうな容姿が未だに忘れられない。このスキャンダルを初めて耳にした際は、上司と共に居酒屋で「まさかあの老人が不正に手を染めるなんて到底考えられない」と語ったものだった。
いずれにせよ、これら一連の不祥事により、みずほインベスターズ証券は会社存亡の危機まで追い込まれてしまい、結果、我々もこれ以上同社を主幹事として上場プロセスを進めることができない状況に陥った。それを受け、多くの証券会社が「我こそは!」と幹事候補に名乗りをあげた。最終的には、今まで行ってきた審査プロセスもそのまま引き継ぐという条件を出してきたみずほインベスターズ証券の系列証券会社に幹事を任せることになるのだが、それはここまでの話とする。
言わずもがなではあるが、ただでは腹の虫がおさまらないのは我が社である。上場申請直前で不可抗力で申請が中止に追い込まれるのは3年前に続き、2回目である。しかも今回は、当社に非は全くない。普段感情を表に出さない社長も珍しく憤怒したが、我々IPO準備チームとしては、それまでの苦労が水の泡に帰したことと、いくら低減されるとはいえ再度上場審査プロセスをやり直すことについて、嫌気がさしてしまった。
しかし、私にとってその嫌気ですら大ごとに感じなくなるような大事件がこの直後発生することになる。
(次回につづく)
No. 214 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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