二転三転
(前回まで) 経営企画マンのスキルを一から学ぶために渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた私は、大手企業との業務・資本提携や競合会社の買収などで大忙しであったが、その集大成が東証マザーズ市場への株式上場であった。ところが上場を目前にして状況は急転直下、上場のネックとなった大株主の一社との資本提携解消に突き進む。その株主の保有する株式の引受先選びに難航していたところ、メガバンク時代の“戦友”が転職した総合商社が候補として名乗りをあげた。
“乾杯!”。2007年9月中旬、港区青山のあるバーでメガバンク時代の戦友と私は声高々に盃を重ねた。戦友はこみ上げる興奮を抑えられないのか、紅潮した面持ちで矢継ぎ早にあれこれ口にしている。ちょうどわが社の社長と戦友が務める総合商社の部門長との会食を首尾良く終え、タクシーで帰宅する二人を見送った後の反省会が始まったところだった。
総合商社に転職した戦友と再開し、新たな株主を探していると話したのが約ひと月前。そこから驚くほどのスピードで話が進んできた。まず両社の担当者同士、すなわち私と戦友で両社が業務提携した場合の大まかな青写真を描いた。メガバンク時代も“大風呂敷”ともとれる企画を何度も提案してきた戦友と私は、一定のブランクを挟んでも息ピッタリで、次から次へとアイディアが溢れ出た。加えて戦友の転職先は天下の総合商社。“引き出し”が多く我々が思いつくどんなアイディアに対しても受け皿となり得る部門が存在した。我々のプランに賛同または巻き込まれる人は自然と増えていき、ここに両社挙げてのワクワクするような統合ビジネスプランが出来上がった。そのプランは商社の一次審査を楽々通過、次の“関所”に向けて更に詳しい審査などが進行中であった。
そして今日、トップ同士の会食が持たれた。それが想像していた以上に上手く行ったのだから、担当者冥利に尽きるとはまさにこのこと。「気が早いかも知れないが祝杯だな」「これで日本のICT業界に一大旋風を起こせますね!」「しかしお前と一緒だと、何でもできる気がするよ」と得意の絶頂に浸っていた我々であった。
数日後、私を訪ねてきた戦友が開口一番、頭を掻きながら次のようなことを言いだした。「小久保さん、実は私も驚くくらい御社への出資に会社が前のめりなんです。今回の大株主の持ち分だけでなくて他の株主様からも買い取らせて頂きたいのですが」。これを聞いた私は少なからず動揺した。他の株主から買うということは、この総合商社が筆頭株主になることを意味する。そのことを、昨年大株主となったNTT東日本や筆頭株主で社長の出身母体である電機メーカーが聞いたら何というか…。
“これは持って行き方によっては大ごとになる”という直感から、私はこの話をすぐ社長に報告した。社長はしばらく黙って聞いていたが、「親会社に行ってくる」と言い残し、カバンを持って出て行ってしまった。このことが実は想定外の結果をもたらすことになるのだが、その話は次回で。
(次回につづく)
No. 190 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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