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骨肉の争いの始まり

骨肉の争いの始まり

(前回まで) 経営企画マンのスキルを一から学ぶために渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた私は、入社以降、大手企業との業務・資本提携や競合会社の買収などで大忙しであった。その極めつけが東証マザーズ市場への株式上場申請準備であったが、上場申請を目の前にして、大株主の1社に“黒い噂”があるとの理由から証券会社が当社の上場支援から降りてしまう。その後を託した新たな幹事証券会社からは、その株主との資本提携を解消することを上場申請支援の条件として突きつけられた。

 

 秋も深まった2006年11月下旬のある夕方、隣に座っている常務の携帯が鳴った。雰囲気から察するに相手は社長のようだ。常務は電話を切ると、「社長が一緒に夕飯食べようって。来る?」と尋ねた。断る理由は、ない。

 約束した店に着くと社長は既に到着していて飲み始めていた。我々に席を勧めると、「いやぁまいったよ。全く聞く耳持ってもらえなかった」と肩を落として話し始めた。社長は問題となっている大株主の社長(以降「A社長」とする)との話し合いを行ってきたところだった。「でも、A社長の気持ちも分からないでも無いよな。いきなり犯人扱いされれば、誰だって面白くないよ」。常務が落ち込んでいる社長を何とか励まそうと言葉をなげかけているのを横目に、私は“全くその通りだ”と冷静に考えていた。

 この大株主は、パソコンの一般家庭への普及に伴って業態を拡大させてきた準大手の家電量販店だった。A社長が裸一貫から立ちあげ、今では多くの人がその名前を知っている。数年前に株式上場を果たし、近年はM&Aを積極活用してその成長スピードを一段と加速させていた。わが社との資本提携も、そんな拡大路線の一環だった。そんな鼻息の荒い最中、当社から資本提携解消の申し出があった。しかもその理由は、“あなたのような悪い会社と付き合っているからうちの会社は上場が出来ない”というものだ。これは、同社の成長戦略に水を差すだけでは済まず、同社ならびにA社長のプライドと名誉に関わる。A社長が立腹するのは当然のことだった。

 当初は当社社長とA社長の社長同士の話し合いが行われた。当社の社長は出身母体の大手電機メーカーで3万人の労働組合の委員長を務めた男。交渉事には絶対の自信を持っていた。一方のA社長は、上述の通り裸一貫でやってきた筋金入りの実力者。自分の全財産をかけてビジネスを行っているというオーナー社長独特の覚悟と意地がある。この両者の交渉は数回重ねても全く折り合いがつかず、まさに泥試合の様相を呈してきた。

 事態が進展し始めたのは、交渉開始から半年以上経った2007年初夏のことである。先方が、提携解消に向けた具体的協議を開始したい、と代理人を通して伝えてきた。しかし、それはあくまで表の顔で、軟化したと思われた態度の裏には、上場という悲願達成のためにはどんな犠牲を払うことも厭わないという当社の弱みに付け込むA社長のしたたかな策謀が仕組まれていたのであった。

(次回につづく)

No. 187   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

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