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IPO(上場)申請 Part3

IPO(上場)申請 Part3

(前回まで) 経営企画マンのスキルを一から学ぶために渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた私であったが、入社以降、大手企業との業務・資本提携や競合社の買収などで大忙しであった。その極めつけが東証マザーズ市場への株式上場申請準備であったが、上場申請を目の前にして、当社大株主の1社に“黒い噂”があるとの理由から証券会社が当社の上場支援から降りてしまった。

 

 「申し訳ございません。なんとかご期待にお答えできるように手を尽くしたのですが、当社には荷が重すぎました」。目の前で深々と頭を下げている証券会社の営業責任者を見ながら、“ここもダメだったか。もしかしたら本当に上場は断念しないといけないかもしれない”と負の思考の連鎖が始まるのを何とか抑えようとしていた。

 数週間前に当時の幹事証券会社が当社の上場支援を断念してから、何社にも上場支援の打診を繰り返してきた。上場支援は証券会社にとってはドル箱でもあり、どこも最初は「是が非でもわが社にやらせてください」と食らいつく。しかし、当社が置かれていた環境、即ちこれが当時の幹事証券会社が降りた理由でもあるのだが、大株主の1社に黒い疑惑があることに対して明確な打開策を提案できる会社はなかった。そして、横並び主義なのかリスクを取らない風潮なのか、最終的には当社の支援を行えない、という回答が来るのが常であった。

 そのような中、ある大手証券会社との面談が設定された。面談に来た営業担当者は、金融の営業らしく清潔感があり真面目そうな外見であるが、それまで会ってきた他社の担当者とは明らかな違いがあった。自信に満ちていた。一目で私は好印象を持ったのだが、その好印象はそれから数日後に現実のものとなった。

 数日後。この大手証券会社から面談の依頼が来た。良い知らせがある、という直感を信じて、私は常務だけでなく社長の同席を求めた。我々3名が応接室に入ると、既に通されていた営業担当者が立ち上がり挨拶をした。前回感じた彼の自信は更に磨かれており、その雰囲気だけで言葉を交わす必要は無いと感じるくらいであった。彼が切り出した。「わが社で御社の上場支援を引受けさせて頂きます。ただし、上場に向けて、御社に乗り越えて頂きたい条件が3つあります。その一つは、懸念事項となっている大株主様との関係です。大株主様との資本提携を解消して下さい。これが絶対条件です」。

 この話が来るというのは分かっていた。ただ、今まで会ったどの証券会社もこのことに言及できなかった。社長が「ただで株を手放してくれとは言えませんよね? ましてや手放して頂く合理的な理由も必要ですよね?」と言うと、「わが社の名前を出して頂いて結構です。」と営業担当は言い切った。このやり取りで社長の気持ちは固まった。

 この株主との資本提携解消は困難な交渉になることは分かっていた。しかし、当社にとって株式上場は創立以来の悲願であり、いかなる理由があろうがそこに向かわなければならない。上場は、その先にある理想の会社像実現のための通過点でしかないのだが、時間を要すれば要するほど通過点はいつしかゴールとなり、そして悲願となっていく。もしかすると理想の会社像の実現には上場はもう不要なのかもしれない。しかし、悲願と読んで字のごく、悲しいかな、その道に盲目的に突き進まざるを得ない集団心理があった。

 実際の資本提携解消の交渉は、我々の想像を絶する経営問題として発展していく。そして、経営企画というキャリアを選んだ私自身も、社運を左右するような騒動と、これ以降多々対峙していくことになっていくのである。

(次回につづく)

No. 186   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

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