(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活も束の間、会社が経営破たん。その後の人生を切り開くため渡米しMBAを取得。帰国後、メガバンク、ベンチャー勤務を経て、夢の実現のためグローバル企業で働くこととなった。
2019年12月下旬。年末年始の休暇を日本で過ごすため、ミネアポリス発のデルタ航空121便にて東京に向かっていた。疲れが溜まっていたのか、飛行機に乗るとすぐに眠りに落ちてしまった。
目を覚ますと機内食のサービスが始まっていた。私の目覚めに気付いた男性のCAが、“Good Morning, Mr.コクボ”と声をかけてきたので、そのまま談笑した。飛行機には数え切れない位搭乗しているが、こんなにも温かい接客に触れるのは初めてであった。
しばらくして例のCAが戻ってきて、“Congratulations! Mr.コクボ!この搭乗でDelta航空のダイヤモンド会員になられますね。これは我々からのお気持ちです”と未開封のシャンパンボトルを差し出された。“さぞかし、あちこちを飛び回って来られたのですね?”と言う彼に、私は「本当に、“飛び回る”という表現通りでした」と答えた。
米国駐在を命じられた3年前から今日まで、がむしゃらに駆け抜けてきた。時間と共に同僚から認められ上司からも信頼され、色々な場面に顔を出すようになった。1年前には、ミネソタ州の子会社だけでなく、ペンシルベニア州にある米州本社にも籍を持つようになって、米州事業全体を見るようになった。結果、米国以外も管掌することととなり、日本への定期的な出張も含め、常にあちこちを飛び回ることとなった。特にここ数か月は、朝起きて「ここはどこだ?」と自問することが常となっていた。
“今後はダイヤモンド会員として快適な旅をお楽しみください”と彼。それに対し、「実は、もう飛び回る必要は無いんだ」と私。
単身で世界を飛び回る代償なのか、日本にいる家族には様々なストレスがのしかかっていた。そして、それは約ひと月前、妻が娘の通う保育園から急遽呼び出されたことで顕在化した。私はすぐに行動した。日本への帰任を申し出、それが受け入れられた。
「自分の夢を追いかけた結果、自分が何をしなければいけないのかが分かったんだ。それこそが真のMy Destinationかと」。しばらくの沈黙の後、CAは“ご家族ですね”と言い、それに対して私は無言で頷いた。
デルタ航空121便は羽田に向け飛行を続けている。私はシートに深く掛け、この情景を「日刊サン」誌上にて紹介する日が来ることに思いをはせていた。
(終わり)
長きに渡ってご愛読頂きありがとうございました。いつか、旅の続きを皆さまにお届けできることを願っております。
Masa Kokubo
No. 255 最終回
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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小久保さんの、実にカッコイイ生き方にわずかにですが触れることができて、すごくうれしい気持ちになりました。ありがとうございます。これからはまた、別な形で挑戦を続けてください。ご活躍、期待しています。