日刊サンWEB|ニュース・求人・不動産・美容・健康・教育まで、ハワイで役立つ最新情報がいつでも読めます

ハワイに住む人の情報源といえば日刊サン。ハワイで暮らす方に役立つ情報が満載の情報サイト。ニュース、求人・仕事探し、住まい、子どもの教育、毎日の行事・イベント、美容・健康、車、終活のことまで幅広く網羅しています。

デジタル版・新聞

My Destination

IPO(上場)準備

IPO(上場)準備

(前回まで) 「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、会社が急きょ経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。その後メガバンク勤務を経て、新たなライフワークに取り組むため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた。

 

 この会社に転職して半年に差し掛かろうとしていた2006年7月上旬のある夜。そろそろ仕事を切り上げて帰ろうかと思っていた私のところに、営業部長が息を切らせながらやってきた。飲みの誘いかと思いきや、いつになく興奮気味な声でこう言った。「成岡(彼の部下)がすごい話をひっかけてきた」。そこから先は、私が身を乗り出して彼の話に聞き入った。

 私が経営企画職の仕事をゼロから学ぶためにこの会社を選んだ理由の一つが、この会社がIPO(株式上場)準備をしており、その準備室が経営企画室であったことである。上場準備になぜ挑戦したかったかというと、上場する会社は上場企業と同等の内部管理体制を整えていることが求められており、その構築に携わることで経営企画業務の基礎となる経営管理の知識と実務を、総合的かつ短期間で身に着けることが出来ると考えたからだ。このような経営管理は、取締役会の運営や予算統制、社内規程の整備などがあげられる。それらが未完成の状態から合格点に持って行くには、その制度を作ったりするだけではなく、導入または修正することに対して社員が納得できる理由付けが必要。大変な作業ではあったが、その理由付けや社員への説得という行為自体が自分自身の深い理解につながった。

 これら内部管理体制の整備は、所詮社内のことだから、やればできる。でも、上場にはもう一つのハードルがあった。それは、上場する会社が投資先として魅力的な「商品」であるかどうかということ。投資家にとって儲けさせてくれる会社かどうか、つまり株価の上昇が見込める銘柄かということであり、簡単に言えば成長性のある会社か?ということである。この成長性が見込めなければ、逆に上場するデメリットも大きく、上場を支援する証券会社も「上場は時期尚早」と判断する。

 狙っていた市場は、鳴り物入りのベンチャー企業がひしめく東証マザーズ市場。わが社はIT銘柄とも言え、成長率は10%以上を期待されていた。今までも10%以上の成長を見せてきたが、それを今後も継続的に持続することを立証しなければ証券会社もその首を縦に振らない。

 そのようなところに冒頭の営業部長の話が飛び込んできた。彼の話は多少脚色されていると思うが、それでもその話は証券会社の要求を優に満たすものであった。“これで行うけるぞ”そう確信した私は、「隣の会議室でもう少し取引の条件とか詳しく教えてくれませんか?」と半ば強引にこれから始まる私の仕事に営業部長をつき合わせることにした。大仕事を終え祝杯を挙げたがっていた彼は、期待を裏切られたような表情を隠さずも、「飲み始めている部下たちに断ってくる」と言って私の後に続いた。

 上場申請に向けて幹事証券会社のGoサインが出たのは、それから数か月先のことである。渋谷の街はすでに秋めきつつあった。

(次回につづく)

No. 183   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

シェアする

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
Twitter
Visit Us
Instagram