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【My Destination】第3章 「再挑戦」北の大地 Part2
(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活も束の間、会社が経営破たん。その後の人生を切り開くため渡米しMBAを取得。メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。子会社での副社長経験を挟み、経営企画業務全体を取り仕切る中、遂に悲願の株式上場承認が降りたのだが、様々なリスクを鑑み上場を中止する決断をした。
2012年8月下旬。北海道札幌市。現在買収交渉を進めている会社の社長室にて、最後の交渉が行われていた。先方はこの会社の社長と社長の懐刀ともいえる若手。この若手については前回寄稿したが、私は第一印象で彼を気に入り、それもあってこの話をここまで進めた。対するこちらは、経営企画室長の私と会社のオペレーションを統括している副社長。事前の下打ち合わせ通り、副社長が口火を切った。
「当初、御社のコールセンター事業を弊社が譲り受けるというシナリオで検討を行ってきたのですが、結論から申し上げますと、コールセンター事業だけでなく御社そのものに対して出資させて頂くことを我々の提案とさせてください」。想定外の提案だったのか先方の社長の顔がみるみる赤くなる。社長が言葉を発する前に隣にいた若手が、「我々の方でも一旦考えてみます。お時間をください」ととりなしたことで事なきを得た。
私と私の懐刀ともいえる太田会計士は、M&Aを考える際に財務的な損得だけでなく、その会社を手に入れることの戦略性を分析することに重点を置いていた。即ち、その会社を得ることで、新たな顧客や新たな技術、さらには優秀なタレントなどが獲得できるのかどうかということである。その視点で検討した際、今回のディールをコールセンター事業に限定すると戦略的メリットが少ないことが分かった。良い例が、先述した若手は先方の会社に居残ることとなる。この我々の見解が当社の方針として採用されたため、冒頭の提案に繋がった。
東京に戻って数週間後、札幌の会社からお断りの連絡が来た。残念な気持ちももちろんあるが、両社が納得した内容で合意に至らなければ、必ず後日何かしらの亀裂が生じる。それが分かっていた私は、大きく一呼吸ついて、今までこのディールで使用してきた資料一式をバインダーにまとめ金庫に格納した。バインダーの背表紙には“北の大地”と記載されていた。
【追記】今まで、数多くのM&A案件を担当してきているが、そのうち成約までいくのはほんの一部で、この案件のようにブレイクするケースがほとんどである。でも、たとえブレイクしてもそこで得られた教訓が、私のビジネスに対する信念や倫理観となって脈々と生き続けていると信じている。
また、今回ご紹介した話を正確に記すためにも、この札幌の会社のホームページなどを10年ぶりに閲覧した。事業は順調に成長し、さらにこの若手が常務取締役として会社のナンバー2のポストについていた。何か口実を作って久々に会ってみようと思う。更に、今回紹介した太田会計士は、今でも私の懐刀として私を支え続けてくれている。
(次回につづく)
No. 229 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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