（前回まで）「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活も束の間、会社が経営破たん。その後の人生を切り開くため渡米しMBAを取得。メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。それから7年後、「幼少からの夢」を追いかけることを決意。2013年6月、遂に理想とするグローバル企業で働くこととなった。

　2013年10月のある日。新宿NSビルにある勤務先の受付に向かうと、懐かしい顔がそこにあった。私に気付いた彼女は、「大変ご無沙汰してます」と立ち上がって会釈した。長身を清楚な濃紺のスーツに包んだその姿は、誰が見ても一流のビジネスウーマン。そう、彼女は前職で私の“片腕”として私を支え続けて来てくれた人物で、今回の私の要請に応じて、当社の入社面接を受けに来てくれたのであった。

　彼女は、慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本を代表するメーカーに総合職として入社、そこで経営企画部に所属された。当初から頭角を現すも、ハードワークがたたり、20代後半には原因不明の体調不良に陥り休職を余儀なくされた。休職が長期に渡ったこともあって、リハビリを兼ね、その子会社であるベンチャー企業にて復職。数年後、私がそのベンチャー企業の門を叩いたところ、そこで配属された経営企画部で彼女と運命ともいえる出会いを果たした。当初は時短勤務していた彼女だったが、徐々に体調も通常に戻っていった。元々実力者の彼女である。お互いを認め合うに時間は要さず、時間と共にそれぞれの価値観などを認め合いながら、自然のうちにそれぞれに取って互いが不可欠の存在となるまでなっていった。

　しかし2010年の夏に事件は起きた。会社の悲願であったIPO（株式上場）準備の最終段階で、幹事証券会社に不祥事件が発生、上場申請直前でプロジェクトの頓挫を余儀なくされた。当時、彼女は経営企画部の副部長の座にあって、部長であり準備責任者の私を献身的に支えてくれていたのだが、この事件が引き金となって燃え尽き症候群を発症、会社を去る決断をした。あらゆる手を尽くし慰留に努めたが、彼女の固い意志は揺るがなかった。彼女を失った後、私の心にぽっかりと大きな穴が空いたのは言うまでもない。

　その彼女と、再び私と一緒に働くこととなった。彼女を再び得た私は、俗に言う水を得た魚のように、パフォーマンスが数段パワーアップしたのだが、それ以上に彼女と一緒に働けることが一番嬉しかった。この後のネタバレとなってしまうが、私はその後、凄まじいスピードで出世街道を歩んでいくのだが、その一番の立役者は間違いなく彼女であった。

　今でも毎日顔を合わす仲ではあるが、彼女と初めて会った2006年2月の情景と、このグル―バル企業の面接に来てくれた時の情景のシーンは、不思議なことに鮮明に私の記憶の中に焼き付いており、今後も彼女への感謝の念と共に永遠に生き続けていくような気がしている。