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デジタル版・新聞

My Destination

【My Destination】取引先の経営難 Part3

(前回まで)副社長を務めていたQAM社は、ジャパネットたかたという強力なパートナーを手中に収め、インターネット回線販売事業での天下取りが目前に迫っていた。ところがQAM社の事業を長年支えてきたIA社が資金難に陥り、今まで以上の資金援助を求めてきた。親会社であるQA社の取締役会はIA社への資金援助を否決、その結果をIA社に伝えに行った私は、社会人人生最大級のピンチに立たされることとなった。

 

 IA社は当社に対してかなり強気のネゴシエーションを行っていた。それは自分達こそがQAM社の最大の功労者であるという自負と、自分達なかりせばQAM社は経営上行き詰まるだろうという過信がなせる業であったであろう。一方の私も、当社グループの決定事実のみを伝え交渉を断ち切ることも出来たのだが、IA社に対する債権を焦げ付かせてはならないという財務責任者としての使命と、ジャパネットたかたが味方に付いたとはいえ、強力な販売力を持つIA社を引き続き活用したい意向があったので、無下に扱わず真摯に向き合ってきたのであった。

 この泥沼と化したIA社とのやり取りの結末は、それまでの経緯から見ればあまりにもあっけないものであった。この交渉が始まって約1か月後の2009年2月下旬。IA社の社長と財務責任者がQAM社に来社し、自力での経営再建を断念すると伝えてきた。応対した社長と私は、表面上は冷静さを装い、今までの当社への貢献に対する感謝を伝え、同時に断腸の思いで英断されたIA社社長の心中を察していることを伝えた。そして最後に、当社に対する債務を返済する旨の契約を結ぶことを承諾させた。同社社長は無言で頷いた。QAM社を後にする2人の背中がとても小さく見えた。

 後日談となるのだが、IA社は経営再建をとある再生ファンドに託した。しかし、それが運の尽きだったのか、事業は縮小していく。数か月後、事態は更に悪化、従業員への給与未払いや強制解雇が行われた。被害者の会なるものが立ち上がり、新宿の中央公園などで決起集会を行っている姿がメディアでも取り沙汰された。折しも、2008年11月に発生したリーマンショックに端を発した「派遣切り」などと重なったため、社会現象としてメディアも本質以上に大きく取り上げたのだった。

 話をIA社社長が自主再建断念を伝えに来た日に戻す。IA社の社長と財務責任者を見送った後、緊急の役員会が招集された。役員会では、その日の出来事を私が説明したのだが、説明の半ばで、社長が急遽一人一人の取締役の名前を呼び上げ、「俺はどうしたらいい?」と泣き崩れた。我々は、IA社との取引を円満に終了させることの大切さを冷静に説き、社長は一旦落ち着きを取り戻した。そして、今後の同社に対する方針を確認し、散会することとなった。

 役員会終了後も私は一人で社長室に残った。「まだ何かあるのか、副社長?」と社長。私は一呼吸置き、「社長、少し宜しいでしょうか?」と返した。

 そして私は開口するやQAM社の将来について胸中を話し始めるのだが、その話は次回で。

(次回につづく)

No. 204   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

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