「モノクロか…」。華やかさに欠けそうで最初は興味をそがれたが、監督はあの“セブン”や“ファイト・クラブ”のデヴィッド・フィンチャー。しかも今年のゴールデン・グローブ賞にもノミネートされているので間違いない、と踏んだ。
ハーマン・J・マンキーウィッツ(マンク)が脚本を書いた“市民ケーン”は映画史に残る大傑作。新聞社や映画会社など複数のマスメディアを経営し頂点に立ったケーンの栄華と凋落を描いた物語で実在した新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストがモデルなのだが、後にこの事が原因でひと悶着が起こることに―皮肉の効いたユーモアの持ち主で魅力的な反面、アルコール依存症でトラブルメーカーでもあるマンクが、監督のオーソン・ウェルズ、プロデューサーのハウスマンに締め切りを催促されながら執筆する様子を、1930年~1940年代にかけて過ごしたハリウッドでの回想を交えて描く。
銀幕のスター!そんなワードが自然と浮かぶ女優マリアン・デイヴィス演じるアマンダ・セイフライドに釘付けになった。画面越しでもキラキラと輝き、脳内で勝手に色艶が補完されるような華やかさ。スクリーン映えとはこういう人のことを言うのだろう。さらに、全編を通じてウィットに富んだ会話や描写が楽しく飽きることがない。
ただ、時間軸が飛んで複雑、内容が詰め込まれ過ぎだと言う彼の脚本を読んだプロデューサーの感想と同じで頭を使わなければならない場面も多々ある。人物関係や当時のアメリカの政治情勢、またシェイクスピアの作品の一幕や哲学者パスカルの言葉の引用、“華麗なるギャツビー”の作者フィッツジェラルドの名前などが頻出するので置いてけぼりにされそうにはなるが、それを十分に上回る内容。
かつて観た“ローマの休日”や“独裁者”を思い出し、白黒だからといって魅力が半減するわけではないと改心。結果、こんなに面白いすったもんだの舞台裏があったのか、と本家“市民ケーン”もきちんと観たくなった。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/新聞王ハーストの大邸宅の描写は誇張しすぎだろう思いましたが、実際の写真を見たら本当にお城のようで今度観光したくなりました。
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