先日、危うく事故を起こすところでした。詳しいことをここに書いてお巡りさんが来るようなことがあっても嫌なので詳細は省きますが、もし事故を起こしていたとしたら、完全に私の過失だったと思います。もちろん、飲酒運転をしていたとか、居眠りしていたという訳ではなく、ただぼーっとしていたとしか考えられないのですが、一瞬で頭のてっぺんから爪先までが凍りつきました。
そんな寿命を縮めるようなことがあっても会社員たるものオフィスには向かわねばなりません。気持ちをピンと張ってなんとかオフィスに辿り着きそうだ、というところまで来たとき。私の視界に飛び込んできたのは無惨な姿になった小さな小さなサバトラ模様の猫でした。あまりにも悲しくてグロテスクなその現実に、胸がグッと締め付けられました。
その日一日中、私はそのサバトラのことを考えていました。いつか絶対に猫を飼いたい、そしてもしご縁があるならサバトラ模様の子猫をお迎えしたい、それは私がずっとずっと抱えていた野望でもあったのです。道路の真ん中で、動かなくなってしまったあのサバトラ。あのサバトラと私は、共に歩む旅路があったのかもしれなかったのです。一緒に遊んで、寝て、時には鬱陶しがられながらも、共に生きていくシナリオがあったかもしれなかったのです。
私がそうして上の空で過ごした1日の終わりには、サバトラは優しい誰かの手によって硬いコンクリートから姿を消していました。そして、はたと気づいたのです。私はあの朝、あのサバトラのようになっていたかもしれないということ。再度身の毛がよだつ思いがするとともに、サバトラの受けた痛みや恐怖を覚えて、サバトラが今は幸せな世界で無邪気に跳ね回っていることを想像することしかできませんでした。
事故を起こしそうになった。死んだ子猫を見た。あの日のとこをまとめるならば、たったそれだけに過ぎません。しかし、その奇妙で切ない巡り合わせには、何かの意味があったように思えてならないのです。
きっと私があの子猫のようになってしまったら、私のために涙を流して祈ってくれる人がいるでしょう。折に触れて、私のことを思い出してくれる人がいるでしょう。私はそう信じたい、そして、そうであるならば、私もあのサバトラのために祈り、あの小さな姿をずっと心に留めておこうと思います。
CAN OF ALOHA No.87
金平 薫 (Kaoru Kanehira)
香川県出身、現在はハワイ某所にて武者修行中。 日々のあれこれを、ゆるりとお伝えできたら幸いです。美味しいものには目がありません。 なんでもない毎日は Instagram:kaoru_days をご覧ください。