「荒海や 佐渡に横たふ 天の河」
誰もが知る松尾芭蕉の名句です。中学生のころ、この句を知り一度も佐渡を訪れたことが無かったのですが、雄大な景色やそこに立って凛とした空気の中で空を見上げる自分自身の姿を思い浮かべたものです。私の子供の頃にはパソコンやスマホなどが無い時代でしたので、映像や画像は想像力を働かすしかありません。けれど限りなく広がる景色を脳の中に描き出すことができて、ある意味幸せだったように思えます。
想像の翼を広げるのに最適な時間帯は個人差があっても概ねベッドに入ったときではないでしょうか? 本来、入眠直前の僅かな時間は安らぎを与えるものですが、近年、睡眠がうまく取れない、中途覚醒で眠った気がしない、酷い場合には寝室に恐怖を感じる方もおられるようです。
睡眠に関する研究はここ20年で格段に進歩しています。この紙面で全てをご紹介するのは難しいので、現在睡眠に問題を抱えていらっしゃる方に向けてより良い睡眠がとれるポイントだけを選んでご紹介しましょう。最初に理想の睡眠時間には個人差が大きく、同じ年代でも3時間程度の差があることを知っておきましょう。但し、1日6時間以下の睡眠時間を続けることは身体に大きな負担となります。この状態を睡眠負債と呼び、糖尿病や心臓病、うつ病、認知症の発症率が高くなるそうです。
そこで、科学的裏付けのある睡眠法を知って実践することが重要となります。因みに日本人の睡眠負債は先進国の中でも深刻だそうです。一般に燃費の悪い動物は長い睡眠時間を必要とします。ヒトの場合でも若い人ほど睡眠が必要です。逆に高齢になれば、長い睡眠時間は必要なくなりますので無理に床に就く努力をすれば、かえって中途覚醒などが起こりがちです。
一日一回長い睡眠(6時間程度)を取ることをメジャースリープと呼び、この間に正確な睡眠リズムをセットで刻むことができます。では具体的にそうしたリズムを生み出す睡眠法をご紹介しましょう。詳細は省きますが、ポイントは3つです。
①光を上手に利用しましょう。朝、空を見上げ太陽の光を浴びること、目にきちんと光が入らなければ体内時計は動きません。
②脳の温度を下げましょう。体温が下がり始めて眠りにつくまで概ね2時間ですが、下がり方が急角度であればより深い睡眠がとれます。それには就寝の約2時間前に40℃の半身浴が最も効率的だそうです。また、就寝の2時間~5時間前には覚醒度が最も高いので、翌日に予定があっても無理に早寝をしないことも大切です。
③筋弛緩法を試してみます。これは手、足、肩、首などに5秒ほど力を入れて、20秒ほど力を抜くだけという実に簡単な方法です。眠ることに不安を持っている方の場合、アクティブな交感神経の緊張を和らげ、リラックスの副交感神経を優位にする効果があります。
今夜はぐっすりお休みになれますように。
神楽坂発 お身体へのお便り No.99
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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