水無月 夏越の祓い
「みなずきの夏越の祓いする人は 千歳の命延ぶというなり(読み人知らず)」
夏越の祓いというのは茅の輪くぐりを主とする神事です。私の生まれ故郷、京都では白峰神社や北野天満宮が有名で、茅で作られた大きな輪をくぐり抜けて、その年前半の穢れを清め、残り半年の無病息災を願う伝統行事です。この神事は高天原を追放された素戔嗚尊が貧しい身なりでとある村を訪れ、一夜の宿を求めたところ、村一番のお金持ち、巨旦将来は身なりをあげつらって断り、貧しい蘇民将来は一生懸命もてなしたので、そのお礼として素戔嗚尊が茅の輪を授け、これを身に着けていれば疫病から身を守れると伝えて村を去り、その後、村で疫病が流行ったときに、茅の輪を身に着けていた蘇民将来の一家だけが疫病から逃れたという言い伝えが由来となっています。
京都にある八坂神社の主祭神も疫病除けの神、素戔嗚尊で、7月に行われる祇園祭は疫病が流行らないよう願って盛大に行われる夏祭りです。このように疫病は古来より恐怖の対象でした。適切な治療法もなく、無念を抱えた怨霊が病を流行らせると考えた人々はひたすら神に加護を願ってやり過ごしていたのです。
すでに2年が経過しようとしている新型コロナウイルス感染症も典型的な疫病です。その広まりは国境を越え、世界を席巻しています。Covid-19の初めての報道は日本では2019年12月31日でした。その当時は誰もがもっと早く終息するものと考えていたでしょう。ところがウイルスは変異を重ね、やっとワクチンが行き渡りそうな現在まで多くの重篤な方や亡くなった方がおられます。
そして日本を含む世界では生活様式や日常生活に変化が見られました。家族の絆が再認識されたこともその一つかもしれません。逆に心が荒んで家庭内暴力やヘイトクライムが増えたことも上げられるでしょう。外出禁止でコロナ鬱やフレイルの進行を心配なさる向きも多かったかもしれません。ワクチン接種が進んでいる欧米やイスラエルの様子が伝えられ、報道によればWHOの見解として7割以上の方の接種が終われば集団免疫(一定以上の人が感染することで、感染者が出ても他の人への感染が減り、流行が収まること)を獲得できるであろうとしています。日本でも遅まきながら大慌てでワクチン接種を進めています。欧州や米国とは異なり、緩い方針で緊急事態宣言を継続している日本がワクチン接種によって集団免疫を獲得できる日が早く来れば、感染症が流行した際の人流を抑制する一つの方法と言えるかもしれませんが、島国の日本がニュージーランドのようにより厳しい措置で対応していれば、失われた命がもっと少なかったのではないか、と考えずにはいられません。
終息の兆しが少しだけ見えてきたCovid-19。トンネルを抜けるまで体調を整え、心を整えて日々を過ごしてまいりたいと思います。
神楽坂発 お身体へのお便り No.93
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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