新しい年を雌伏の時と捉えましょう
「静かなる 夫婦暮らしの 笑初(わらいぞめ) [冨岡風生]」
昨年はコロナ禍に明け、コロナ禍に終わった1年でした。コロナ禍は健康にも経済にも大きな影響を与え鬱々とした日々を過ごしておられた方も多かったと思われます。この先、ライフスタイルは勿論のこと考え方や他者との関係など人類全体に大きな変化が訪れるかもしれません。改めまして明けましておめでとうございます。今年が皆様にとりまして安寧で健やかな年となりますよう祈念いたします。
変化に柔軟な対応をするには思考を司る脳の機能が欠かせません。中でも私達は過去の記憶を参考にしながら行動を決めていきますので記憶の重要性は言を俟ちません。ひらめきも決して空から降ってくるわけではなく、記憶の引き出しから取り出した経験の一部が土台になっていると思われます。
記憶とは何か、と聞かれたら、多くの方は思い出とお答えになるでしょう。脳科学で定義すれば、“外界から情報を得た時、その情報をあとで行動に役立てるために蓄積しておく脳の働き”と纏めることができそうです。以前に読んだ本に記憶は非常に長いドキュメンタリー映画のようなもの、とありました。記憶はまさに人が人である証左なのではないでしょうか。
認知症が恐ろしいのはこの証左が失われていくことにあります。昨夜の献立を忘れても大きな混乱はありませんが、自分を取り巻く環境を忘れていくことは本人にとっては勿論のこと、家族や友人の喪失感は想像に難くありません。
日常経験する全ての事柄の記憶は脳の中にある海馬と呼ばれる小さな組織に送られます。残念ながらこの海馬は認知症などの病気だけではなく、加齢によっても萎縮が進んでいきます。高齢者の「物忘れ」が加齢によるものか、アルツハイマー病などの初発症状かの区別がつきにくいのは萎縮という共通点があるためのようです。私達の記憶は海馬に送られフィルターにかけられた後、必要な情報は側頭葉の貯蔵庫に納められいつまでも保管されます。この貯蔵庫に入るには、印象が強い、重要性を感じる、そして何度も繰り返されている、といったことが必要だそうです。つまり、記憶にあることはこの3点のいずれかに該当しているのでしょう。
海馬が少し萎縮しても年齢を重ねることの有利な点は記憶の蓄積が若い方より多いことです。今後の時流を読むには若い方の発想力に年長者の経験+記憶が重要な役割を果たしてくれるのではないでしょうか。
コロナ禍の全てを負にせず、次の一手のためにも家族や友人、職場の人々とより良好な関係を築き、穏やかに健やかに暮らす雌伏の時として、新しい1年を捉えたいものです。
※ZOOMでの栄養健康相談、ドクターによる医療相談も実施しております。詳しくは https://www.jast1.jp/ で。
神楽坂発 お身体へのお便り No.88
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
シェアする