台湾の半導体製造工場、 日本で生産を予定
目下、全世界の先進的機器の生産において、一番必要とされている小さな最も重要な部品が半導体であることはよく知られている。デジタル化の進化が世界的趨勢の中で、人工知能(AI)やIOT(モノのインターネット)といったデジタル化に欠かせない機能をもつ特殊な半導体の需要は増大するばかりである。
ところで、この必要とされる特殊な半導体は、一度に大量生産が出来ず、恒常的に品不足であり、注文してもなかなか手に入らない状況である。特に災害が発生し、半導体の生産力の低下や消失が起きると、重要な産業分野への影響は甚大である。
世界市場で半導体を生産できる大手の会社として、台湾の台湾積体電路製造会社(TSMC)がある。これまでこの半導体製造工場の設備や経営方針等についての記事や説明はメディア上ではあまり見当たらない。
台湾積体電路製造会社の最高経営責任者(CEO)魏哲家が今夏8月、珍しく日本で記者会見し、同社が日本での半導体製造工場の建設の可能性について「排除しない。現在、投資リスクの調査中だ」と語った。即ち、TSMC社が日本工場の建設を検討していることを初めて公にしたのである。このニュースは直ちに全世界に伝わり、大きな話題となった。
台湾の関係者の話によると、TSMCは既にこの半導体の製造工場を建設する前に、研究開発の拠点を茨城県のつくば市に設けるという。TSMCは、外国である日本で、この様な巨額の投資するにあたって、日本側がどの程度の投資額を準備する用意があるのか、並びに巨額な投資を回収できるほどの安定した半導体の需要が日本国内にあるのかを見きわめる作業もおこなっている、という。
そして、この開発に日本の経済産業省(経産省)は今年5月、建設投資額約370億円のうちの190億円を日本政府が負担すると、発表している。また、経産省は6月に発表した半導体・デジタル産業戦略において、半導体産業を「国家事業」と位置付けている。経産省は、先端技術を持つTSMCの工場の設置によって国内のデジタル産業機器製造の生産力を向上させたいとの方針でTSMCの日本進出を積極的に働きかけてきたのであり、この努力が実を結べば、日本は貴重な半導体の安定供給に向けて大きく前進することができる、と期待している。
海外の大企業の誘致合戦で争うには兆円の国家的な大規模投資が必要であるが、同時に両者間の関係性が良好であることも必要である。TSMCが日本に半導体製造工場を建設するという意思表示は、両者間の信頼性に基づく友好関係を背景としていることも明らかである。
さらに、両者間の経済を始めとする各種の利益も共通するところが多いため、この協働事業がスムーズに進むことは多いに期待できる。今月1日には日本の行政機関として新たにデジタル庁も発足した。このような中で、両者間の協働事業が実を結ぶことは間違いなさそうである。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.214
早氏 芳琴