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【今どき ニッポン・ウォッチング】“坂道の多さ”は長寿の秘訣になるのか?!
厚生労働省の2020年の調査によると、日本人の平均寿命を市区町村別に調べると、川崎市麻生区が男女ともに全国1位となった。長寿の秘訣はなんだろうか?
東京・新宿から快速急行で20分余り。小田急線の新百合ヶ丘駅を中心に広がる麻生区のベッドタウンは、多摩丘陵の里山が連なる土地にある。川崎市の7区の中で最も持ち家率が高く、庭が広い戸建て住宅が多い。農地や山林も多く、自然が豊かな所である。
人口約18万人の麻生区の平均寿命は男性が84.0歳、女性は89.2歳。5年に1度の調査で、麻生区がトップになったのは、今回が初めてである。
真夏日のような6月の中旬頃の朝、万福寺さとやま公園に高齢の男女約20人が集まった。区のオリジナル体操で体をほぐした後、ボランティアの先導でウォーキングに出発した。
住民の中には、「どこに行っても坂道ばかり。足腰が鍛えられて健康と長寿な人が多いのかも」という地理的要因を強調する人もいる。ここ一帯は確かに高台と低地が入り組み、北部と南部の高低差は、約100メートルを超える。ウォーキングに参加したことのある人によると「下ればすぐに上がる。それがこの街」の自然地形の特色だという。
区の呼びかけで始まったウォーキングのほか、この地区では他に多くの健康増進のための活動があった。例えば、駅前での文化関係の施設でのイベントなど、心身の健康を図る取り組みは数多い。地域ケア推進課長が言うには「長寿の理由ははっきりとはわからないが、高齢者が住みやすい地域づくりや、住民の繋がりがより強固になるいろいろな活動も行ってきた。
また、この地区の医療面における諸施設も充実しており、聖マリアンナ医科大学病院などの大きな病院もある。現地の住民の話によるとこの付近の住民はかかりつけ医を持っている住民が多く、病院にかかるのに不便感を感じたことはないという。
今回の厚労省の調査全体からは、地域間の「健康格差」も浮かび上がった。上位には県全体で健康意識の向上を図ってきた長野県の市町村のほか、麻生区や横浜市青葉区など、都心へのアクセスが良い郊外の町が入っていた。東洋大学の介護福祉担当の先生が言うには、「WHO(世界保健機関)の報告にもあるように、健康は社会的な状況にも左右される。医療の充実や所得などの要因に加え、人と人とのつながりが豊富な地域ほど要介護のリスクが低いことも分かっている。
専門家は、「地域間の健康の格差は、これからは徐々に固定・拡大される恐れがある。条件が整っている自治体は平均寿命を延ばす可能性はあるが、下位の自治体は停滞した状態が続く懸念もある。国の協力や取り組みも重要だ」という。
最後に強調したいのは、ただ住む所に坂道が多いというだけで、人間が長寿でいられると思うのは非現実的だと認識すべきことであろう。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.266
早氏 芳琴