日本新型砕氷船の建造を急ぐ
今年3月、スエズ運河で発生した大型コンテナ船の座礁事故で、多くの船舶が足止めされたことは、世界の海運事業者に大きなショックを与え、北極海航路への注目が、にわかに高まった。
米国、ロシアや北欧諸国は言うまでもなく、中国に至っては、北極海を「氷上シルクロード開発」の目標として、複数の砕氷船を投入し、航路の整備や資源の調査に力を入れるようになって来た。
北極海は夏になると海氷が減り、東アジアと欧州を結ぶ航路が通じることからも、地政学的な重要性が高まってくる。そのため、諸外国は砕氷船を投入して観測を強めており、日本も開発に遅れをとらないようにと新型の砕氷船の建造に着手せざるを得なくなった。
日本の海洋に関する研究及び開発を所管する海洋研究開発機構が建造を予定している新型砕氷研究船は、全長128メートル、幅23メートル、総トン数1万3千トンで、厚さ1.2メートルの氷を砕きながら前進でき、99人が乗船出来、船上にはヘリコプターやドローン、無人潜水機を搭載できる、総建造費約335億円、2026年の就航を目指すという。
海洋機構はこれまで、大型の海洋地球研究船で北極海を観測してきたが、船体はかなり老朽化が進み、砕氷能力も低下したため、冬季での観測が困難になった。文部科学省は、北極観測に「しらせ」を投入することも検討したが、南極往復に加えて北極海観測もするとなると、メンテナンスや乗務員の訓練の時間が足りなくなると判断し、新たな北極海観測船の建造をするのを決めたのである。
国立極地研究所の関係者は、「北極海の変化は遠い地域での問題ではなく、日本など地球全体に影響を及ぼす、そのため、対策を急ぐ必要がある。特に、海氷下の水温や塩分濃度などの観測は、大気へ放出される熱や水蒸気、海洋の循環にも関係してくるため、温暖化や海氷融解の正確な予測には欠かせない。日本へ近づく台風の進度や寒波襲来の把握にもつながる」という。
北極海は、温暖化の影響で北海道の面積に匹敵する約9万平方キロの氷が、毎年消失しており、今世紀に入ってから、海氷が解ける夏は、ロシア沿岸を通って欧州と東アジアを船で行き来できるようになっている。そのため天然ガスを運ぶタンカーや貨物船の航行が増えて来たという。
米国は「北極海航路は21世紀のスエズ運河になる」とまで見做している。また、北極圏の地下には、未発見の石油や天然ガスの4分の1が眠っているともいわれている。そのために、特に近年は、関係諸国の資源調査には余念がない。
北極圏が地政学的な観点から見ても、その重要性は年々高まっている。世界G7先進国の一員である日本は、決してこの実態を無視してはならないのである。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.205
早氏 芳琴