コロナ禍は「ハンコ文化」の 廃止を促すか?
急速に世界中に蔓延し、人類を一人残らず死の淵に追い落そうとしているかのような「コロナ禍」は、今や全人類共通の憎むべき宿敵となってしまった。日本は先進国の一員として、既にこの戦いに参加し、人類共存のために、しかるべき力を出そうとの決意を固めているように見える。
「コロナ禍」の蔓延を食い止める最も大切な基本原則は、人々の日常生活において、人と人との接触を最大限に制約し、出来る限り屋内に滞在し、「不要不急」の外出を避けることであり、これが一番効果的であると専門家たちは助言している。こうすることにより、日常生活から80%以上の外出人数が減ることによって、人と人との接触人数を最大限に減少させ、疫病の感染増加を防ぐことが期待できると言うのである。
ところで、日本では海外の国々にみるような都市封鎖、ロックダウンといった措置は法治国家の国是にあってそう容易く出来ないのである。ようやく4月に入って出された「緊急事態宣言」は「新型インフルエンザ等対策特別措置省法改正法」成立の後に出された政府による要請である。政府は、国民に協力と理解を強く呼びかけているが、要請事項であり、罰則規定はないのである。
このような状況にあって、少なくない会社勤めのサラリーマンは、早朝の通勤電車に乗り遅れまいと、駅に向かって足を速めるのは何故なのだろうか? ある調査によるとその主な理由としては、会社には様々な書類に必要な「ハンコ」の押印が待っているからであるという。
目下、日本政府は外出自粛を強く求めていることから、会社事務での伝統のハンコによる押印方式を廃止し電子契約へ移行するように薦めているが、この長年の商取引の慣行はそう簡単には撤廃できそうにないようである。統計によると、ハンコによる押印又は印鑑方式を廃止し、既に電子契約に移行した会社は、現時点では約5割程度にとどまっているという。特に大企業の対応が非積極的であるのが目立つ。大企業の社印を管理する担当者が、毎日交代で出社しているのは、押印のためであるという。他にもネックとなっているのは、行政関連の届け出などで、多くの公文書が印鑑を必要としているからである。
中国から我が国にハンコ文化が伝わってきたのは、『漢委奴国王』と刻まれた国宝となっている金印であったと言われている。そのハンコ文化が、21世紀の今日まで、日本で活用されてきたことを思うと、まことに長期間「ご苦労様でした」と一言の謝礼を申したい気もするが、時代が既にIT時代に突入したからには、この様な古い商取引の方式はもうそろそろ退場すべきであると思わざるを得ない。
ハンコ文化の継承は、官公庁の人事発令、賞状や各級学校の卒業証書などの文化的な習慣として、あるいは書画の落款における芸術分野に使用されるには、なおそれらの価値が大いに期待されよう。要するに、時代は進歩して行くものであり、時代の進歩に伴い変革すべきものは惜しみなくその改革に着手すべきとの決意が必要であろう。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.180
早氏 芳琴