10月25日に禁酒を始めてから、あっという間に2か月以上経ってしまった。「どちらが先に脱落するか?」という夫婦間の賭けは、現在も継続中。つまり、ふたりとも何の支障もなく酒抜きの生活をしているのだった。
そこで迎える新年。夫は「飲む」と言った。お正月くらいは美味しい日本酒をたしなみたい、とのこと。
そんなもんかな? まあ、反対する理由もないので、新年の買い出しのついでに、そこそこ高級な日本酒を購入した。賭けは一時中断である。
そして迎えた元旦。例年通り、岐阜県の友人からもらったヒノキの一合升を引っ張り出した。今回夫が選んだのは、新潟の純米吟醸「菊水」720ML。ハワイの「Sake」コーナーでは比較的ポピュラーなブランドである。夫は升の八分目ほどまで酒を注いだ。
私は躊躇した。2か月半後にいきなり日本酒である。果たして本当に飲めるのだろうか? 私は控えめに、升の3分の1を満たした。乾杯の後、とりあえず匂いを嗅いでみた。日本酒なので、強い香りはしない。おそるおそる一口含む。あれ? アルコール特有の刺激は何もない。菊水は、やわらかく滑らかに喉を滑り落ちていった。
久しぶりにお酒を飲んだら、まったく美味しく感じなかったという話はよく聞くし、実際、私もそんなものだろうと思っていた。いたけれど、現実は違った。美味しい。子供の頃にお酒を舐めて「不味い!」と叫んだような、あんな感じではない。「安物ちゃうからな」と夫。なるほど、そういうものなのかな?
そうなると別の問題が生じる。美味しいお酒というのは、得てして飲み過ぎるものなのである。あまりにもすんなり飲めるので、私は続けて二口目を飲んだ。胃が熱くなる感覚もない。これなら余裕で飲めちゃうな。そう思った時に、突然、頭がクラりとした。これはヤバいと、本能が告げていた。
すっかり忘れていたけれど、アルコールが効くまでには時差がある。お酒の種類によって効くまでの時間は異なると思う。日本酒は最初は比較的マイルドなので、効き目が分かりづらい。そして気づいたときには遅すぎる、というタイプ。このまま調子に乗って飲み続けたら、あっという間に取り返しのつかない地点に達するに違いない。私は杯を夫に託した。
夫は実に幸せそうに飲んでいたのだけれど、案の定、ほどなく撃沈した。さすがにいきなり一合はやりすぎだったみたい。高校生のときにこっそりお酒を飲んでひどい目にあったことを思い出したそうな。「飲む前に戻りたい」とつぶやき、夫はベッドに転がった。
というわけで、私は結局二口しか飲まなかった。その後も欲求ナシ。残りは夫が数日かけて少しずつ飲んだ。そのあとはふたりとも元に戻ってしまい、相変わらず飲まない生活が続いている。このままだと賭けは引き分けかなあ。こんなに簡単にやめられるなら、もっと早くやめればよかったなあ。
それにしても、あんなに愛し合ったのに、あの愛はどこに消えたの? と、お酒への愛を懐かしむワタクシであります。
No.235
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
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