日没が少し早く感じられるようになりましたが、相変わらず気温の高い日が続いております。今夏は酷暑と台風、世界情勢にも不穏な流れが多く子供の頃の遊び惚けた夏休みを懐かしく感じる今日この頃です。そうした中でも季節は滞りなく巡り、秋の便りも聞こえるようになりました。我が家の庭でも夜を迎えると虫たちの大合唱を聴くことができ、深夜の強い雨で洗われた木々も朝日を浴びて翠色が鮮やかです。秋にはきのこや根菜類など豊富な食材が多く出回り食を楽しむ日々を待ち遠しく感じます。
消化器が健やかでなくては食を楽しめません。私たちの臓器は年齢とともに老化します。臓器の中で最も早く老化するのが腸と腎臓で、血液を多く利用している場所の老化が早いのです。
腸は体内老化のペースメーカーであり、腸の老化が早ければ、当然他の臓器も老化の進みが早くなります。内臓にはそれぞれ、その人の一生分の仕事を最適のペースでこなすための時間が設計されていて、この臓器固有の寿命がそれぞれの「臓器の時間」です。腸は臓器の時間の流れが最も早いのです。腸に存在する腸内細菌叢は乳幼児期に形成され、成人後に変化することは殆どありません。腸内細菌叢の組成は出生時にある程度決まっているのです。ヒトの腸には1000種類以上100兆個もの多様な細菌が棲みつき独自の生態系を作り上げています。この腸内細菌叢と老化の関係に近年注目が集まっているのです。
高齢になると握力低下、歩行速度低下、筋肉量減少(サルコペニア)といった不具合が出るのが一般的ですが、善玉と呼ばれる腸内細菌が多い場合には低下速度が抑えられ、高齢でも日常生活に支障をきたさないそうです。外見も含めて身体の老化度を示す生物学的年齢はヒトによって大きな差があり、この生物学的年齢の指標の一つとして腸内細菌叢解析による腸年齢時計があります。
では、望ましくない腸内細菌叢をもって生まれればその状態が一生続くのでしょうか?京丹後コホートを主導した内藤裕二教授のお話では腸内細菌叢自体は大きく変化しなくても日々の食生活で腸の賞味期限を長くし、老化を緩やかにすることは可能だそうです。つまり、生活習慣よって、臓器の時間の進み方を遅くすることは可能なのです。抗加齢を視野に入れてペースメーカーである「腸の時間」の進み方をゆっくりさせる配慮と工夫をしましょう。
方法として①過食を慎む②食事時間はできるだけ規則正しく③早食いは控える④腸内で発酵を促す葉野菜や根菜、豆類、海藻など食物繊維豊富な食材を利用し、腸の健康をヨーグルトだけに頼らない食生活などが挙げられます。
ちょっとした努力でただの食事を健康食に変えながら、免疫までも担う腸の老化時間を緩やかにして、若々しい身体を保つことができればお得感一杯ですね。
神楽坂発 お身体へのお便り No.121
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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