「願わくは 花の下にて春死なん この如月の望月のころ」山家集に収められた西行法師の句です。この花は桜と言われています。如月は二月ですので、梅を指しているのでは、とのご意見もありますが、文献を調べますと陰暦の二月は現在の暦では三月後半に当たりますので、やはり桜を指しているのでしょう。満開の桜の頃に思い残すこともなく西行法師は願い通り釈迦尊と同じ二月十六日に漂白の旅を終えこの世を去りました。
今年は桜の開花が例年になく早く始まり、我が家の近くでも街路が一面桜色に染まっています。日本人は殊更桜花を好む傾向があり、コロナ禍が一段落した今年はお花見も盛況です。但し、花粉症で辛い思いをしている方々にとっては苦しい時期ですね。
花粉症は“症”の字をみてもお分かりのように、疾患ではありません。花粉によって起こるアレルギー症状全般を指す言葉で私たちの身体が花粉を異物と判断する防御反応なのです。そのため、花粉がつきやすい鼻からはくしゃみや鼻水、目からは涙などが出て、身体は健気にも頑張って異物を外に出そうとしているのです。米国アトランタのアレルギー・喘息専門医であるスタンレー・ハイマン氏グループとエモリー大学の共同研究では、異物となる花粉の飛散量は時期だけでなく一日のうちでも時間帯によって変化があり、気温が上昇するに伴い増加すると報告しています。
花粉症で苦労している方は日本のみならず世界的に増加しています。その原因は多岐に渡るようですが、日本アレルギー協会理事で日本医科大教授の大久保公祐氏によれば、抗菌薬(抗生物質)の使い過ぎが考えられるとのことです。二次感染を防ぐ名目で軽い風邪などに安易に抗菌薬を利用すれば、腸や皮膚で私たちと共生している体内の細菌叢が乱れて免疫機構のバランスが崩れ、花粉をはじめとする“自然のもの”にまで防御反応を示すようになったことは身体への逆効果なのですね。コロナ禍で顕著になった抗菌グッズなどよる過剰な殺菌によりクリーンすぎる環境も花粉症患者様増加に一役買っていると述べておられることも付け加えておきましょう。
お酒を飲んだ翌日に花粉症の症状が悪化することがあります。それはアルコールによって体内の毛細血管が拡張し鼻の粘膜が腫れて敏感になり鼻水などを誘発するためです。但し酔っぱらった状態で眠らない、深酒せずに嗜む程度を心がけ、脂身の多いおつまみを避けるなどで花粉症とお酒の相性の悪さをある程度軽減することができます。花粉症で抗ヒスタミン薬をご利用の方は飲酒すると眠気が増して悪酔いしがちですのでご注意ください。また、第三世代の処方薬の中には眠気を誘発する成分の入っていない薬剤もありますので、ドクターとご相談ください。(治療中の飲酒は基本お薦めできませんが)花粉症の症状を少しでも緩やかに気持ちの良い春をお過ごしください。
神楽坂発 お身体へのお便り No.116
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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