「年明けてゆるめる心!うっとりと来し方をすべて忘れしごとし(石川啄木)」
この3年間、新型コロナウィルス感染症によって身近な方が彼岸へと旅立たれたり、今も後遺症に苦しんでおられたり、生活が激変した方も多くある中、9月後半より急減した感染者数によって原稿を書いている現在、街には賑わいが戻ってきように見えます。ただ、オミクロンと名づけられた新たな変異株の登場で必ずしも安心して過ごせるとは限らない新年を迎えました。この2年間に起こったことをそれ以前に誰が想像したでしょう。未来が実は儚い夢と感じられた方も多かったのではないでしょうか。感染症だけでなく、地球環境の急激な悪化も伝えられています。後に続く子供たちに穏やかな未来を残すために今こそ私たちがすべきことを見直し、新たな価値観を見出すことも必要と感じています。
さて前回の問いかけ“脂質は悪者”をもう少し掘り下げてみましょう。今回はタンパク質が豊富に摂れる代表的な食材、肉のお話をしましょう。タンパク質を摂れる食材には大豆など植物性もありますが、動物性たんぱく質には私たちヒトが外部から摂り入れなくてはならない必須アミノ酸のバランスが植物性に比べて優れています。
では、どんな肉でも同じ組成かといえばそうではありません。育成環境によって肉の脂が異なっているのです。牛肉に関して言えば、牧草を与えて自然な環境で育った牛(Grass-fed beef)とトウモロコシなど穀物を与えて育てられた牛(Glen-fed Beef)を比べると後者の脂身にはオメガ6系脂肪酸が多いのです。もともと肉は飽和脂肪酸が多いために心血管の健康にはあまり望ましくないと言われています。
オメガ6系脂肪酸も適正量であれば必要ですが、家庭で使用されがちなサラダ油や大豆や小麦など日常的に口にする食材にも含まれていますので、過剰摂取になりがちです。オメガ6系脂肪酸の過剰摂取は喘息などのアレルギー疾患や動脈硬化など生活習慣病と呼ばれる疾患の原因ともなります。そのため、肉を食べるのであれば育成環境を視野に入れて食材選びをすることも健康に資することとなります。
また、油を利用する場合、サラダ油の代わりにオメガ9系脂肪酸のオリーブオイル(フレンチパラドックス=フランス人が脂肪分の多い食事をしても心血管系の病気に罹るヒトの割合が小さいという逆説の一因と言われています)や菜種油などを利用することも良いでしょう。
最後にマーガリンのお話。従来、マーガリンは身体に有害と言われていましたが、ミネソタ大学の研究(PubMed)ではバターよりもマーガリンの方が心血管系の健康に有益と報告しています。これはFDAが2018年に食品への水素添加物油脂の使用を禁止したことが大きな要因となっているそうです。
今年こそは穏やかな日々が過ごせますよう、安全な食卓でありますよう願っております。
神楽坂発 お身体へのお便り No.101
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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