ここに行かずには死ねない!と思い続けて三十路を過ぎた。躊躇の理由はずばり、高山病。頭が割れるような頭痛や吐き気、最悪の場合は肺や脳に浮腫が出来、死に至ることもあるという。一般的に標高2,500mを超えるとなりやすく、クスコの標高は3,400m。現地で医者にかかった、具合が悪すぎてマチュ・ピチュへ行けなかった、など様々な体験談に怯えながら挑んできた。
マチュ・ピチュ遺跡 |
そう、これが見たかったのだー遺跡全体を見下ろせるポイントに到達した際、喉につかえていた何かが取れたような晴れ晴れとした気分になった。何より、カミソリの刃一枚入る隙間もない、と言われるほど精緻に積み上げられた石材に直に触れられて嬉しかったし、マチュ・ピチュまでの交通手段、アンデス山脈を走る展望列車も素晴らしかった。が、実はクスコ市街の方が気に入ったとは少々言いづらい。
聖ロサのフェスティバル |
インカ帝国とその後のスペイン統治時代の建築物が入り交じった街並みが美しく、サン・クリストバルの丘からの眺めは最高だった。教会めぐりでは、キリスト磔刑像やイコンの描写が生々しく欧州との差異を感じた。また、中心部を散策していると不意にノリノリのラテン音楽が…続いて鮮やかな原色の衣装を纏った子供たちが現れ、踊りながら行進してきた。ペルーの聖女、聖ロサのためのフェスティバルだそうで「これぞ南米!」という光景に立ち会えて幸運だった。
牛肉とキヌア |
現地でバックパッカー美女と知り合ったのも、素敵なサプライズとなった。空港からタクシーに乗る際に話しかけられ意気投合し、夜は二人で〝クスケーニャ″というペルー産ビールや隣国チリのワインを飲み歩いた。ご当地料理〝アルパカのたたき″はあまりおすすめしないが、牛肉と添えてあったキヌアには大満足。栄養満点のスーパーフードである上こんなに美味しいなんて、と昨今のブームにも納得だ。
懸念していた高山病などすっかり忘れ、目一杯観光を楽しめた。個人差もあり、用心するのに越したことはないが、あまり神経質になる必要はないかも知れない。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/展望列車は、グレードの高いハイラム・ビンガム号に乗ればよかったかなとちょっと後悔。なお、高山病予防のためアルコールは飲まない方がいいそうです…。
(日刊サン 2020.1.9)