家族のリアルな日常を描き続けたい 連載漫画「気分はハワイアン」作者 馬場 道子 さん
日刊サンハワイで約8年にわたり連載をしてきた漫画「気分はハワイアン by Michi」、先日400回を超えるロングランとなりました。中国系アメリカ人との結婚を機にハワイで暮らす、ある日本人女性の目を通して見たリアルな日常が漫画になっています。作者の馬場道子さんに、漫画を描かれた経緯、そして漫画のテーマにもなっている自身にとっての“家族とは何か”についてお話を伺いました。
思いは言葉より絵にするほうが伝わる
−いつ頃から漫画を描いてこられたのでしょう
子どもの頃から絵を描くのは好きだったです。物心ついた頃から暇さえあれば何か描いていましたね。チラシの裏とかノートの隅に、ストーリーをつけた漫画の真似事みたいな絵をよく描きました。友達の似顔絵も描いていましたね。人と話すより、絵で描いた方が早い!と思っていたくらい、絵でコミュニケーションをしていたのです。私の生まれた家は薬屋でしたので親はいつも忙しく、休みの日でさえなかなか構ってもらえない、なので一人で黙々と絵を描き、自分で楽しみを見つけていたのを覚えています。
中学生の時に“チャッピー”という名前の犬を飼っていたのですが、高校受験で忙しくて満足に面倒をみられずにフィラリアで死なせてしまいました。その時のことを中学から高校生になる頃にかけて漫画に描き上げました。自分ではとても気に入って大事にしている作品です。後から受験する姪や、知り合いに読んでもらったら泣いてくださる人もいました。
−プロの漫画家を目指していたのですか?
漠然と漫画家になることもちょっと考えたことはあります。当時好きだった漫画家さんはたくさんいましたが、手塚治虫さんは特に素晴らしいと思っていました。ストーリーも構想から超人的な才能の持ち主で、もう“神”みたいな領域でしたからね。子ども心にも、趣味ではなく本業の漫画家になるにはずば抜けた才能と、壮絶な苦労に耐える覚悟が必要なのはわかりましたから、本気でプロを目指すことはしませんでした。たまにご縁があった時に少々描かせていただいているくらいでした。
家族への思い、あなたの場合はどうですか?
−ご出版をされていますね
はい、2006年に「母への長い長い手紙」という本を上梓しました。これは最初は自分の家族の歴史のいわば覚書きのようなもので、母は“自分史”のようなものを残したいと、プロのライターさんに頼んだのです。母から直接話を聞きながら書いてもらったのですが、どうしても細かいところがうまく伝わりませんでした。違うそうじゃない、こういうことなんです、と下書きにしてもらおうと自分で書き連ねていったことがそのまま本になってしまったのです。
母が年をとってきたこともあって、ある年に私はハワイでCNA(看護助手)の試験を受けることにしました。今は日本語で授業を受けたりもできるようですが、その頃は受験する人はフィリピンの方が大半で、授業はもちろん英語。仕事や家事をすべて休んでの2週間のクラスは本当にきつくて大変でした。
私の父は薬剤師だったのですが、ある時から医師を目指すようになり、ほとんど家族そっちのけで猛勉強をしてきました。そんな中で母親だけでなく家族も大変な苦労を強いられたわけですが、父が家族を犠牲にし身を削りながら、なおも夢を実現するために勉強してきた時の気持ちが、その時の受験勉強で“痛い”思いをして少し理解できるようになったのです。CNA受験で体験したことを軸に、考えたことを思いつくままにノートにつらつらと書いてみました。“手紙”というには長すぎてノート1冊が埋まってしまったのですが、それを母に読んでもらったら母は心打たれるところがあったようで、家族の歴史とともに出版社に原稿が持ち込まれることになったのです。
−お母様はかなり苦労されてきたようですが
子どもの頃から特に母親の愚痴は聞かされてきたわけですが、自分がその年齢になってようやく理解できることもたくさんありますね。今になってそうだったのか、そんな意味があったのかと愕然とすることもあります。そういうことを知っていく積み重ねで家族を許せるようになるのだと思います。
今、新型コロナウイルス禍で世界が大変なことになってますが、父母の時代は苦労をされている方はもっともっと多かったかもしれません。よその家族と比べてどっちがどうかということではなく、どれだけ自分の身内や家族の歴史を知っているか、親族に対する愛情とはどういうものなのかを、この本では読者に「あなたの場合はどうですか?」と投げかけてみたいような気持ちもありました。
やめてくれ、と言われるまで続けたいです!
−日刊サンに漫画を連載されたきっかけは?
日刊サンでコラムなどいろいろな寄稿の募集があったので、あまり気負わずにダメ元で送ってみました。
すでに描き上げていたものが2種類あって、一つはハワイ語をダジャレみたいにして覚えよう、という感じのものでした。もう一つが「気分はハワイアン」で、初めは短編のつもりだったのですが、日刊サンからは「こちらの方が長く続けていただくには良いかも」と言っていただいて、家族の話を膨らませていくことになりました。こんなに続くとはまったく想像もしていなかったのですが、こちらを選んでもらって良かったなと思っています。
−リアルなご自身の家族が出てきますね
主に漫画に出てくるのは夫の“マイク”、娘の“愛美(あいみ)”です。ハワイでは国際結婚をされている方が多いですね。私の夫は中国系アメリカ人です。日本人同士の方が気持ちは通じ合えるのでしょうけれど、カルチャーの違う外国人との結婚はなかなかそうもいかないようで、周りはけっこう離婚率も高い気がします。
実は私も結婚当初は、嫌だったら別れればいいや、くらいな気分だったのですが(笑)、相手のことが100%わからない、理解できない部分が残されているくらいな方が案外長続きする、とも思えるようになりました。夫の親族が集まればみな中国語での会話なのですが、もしかしたら自分の悪口を言っているかもなと感じながらも、わからないから気にせずにいられるんです。お互いを全部知らないで済むこと、また相手とすれ違うのは仕方がないと割り切れることも、かえって良かったのかもしれません。
バックグラウンドの違いから生まれる“ズレ”は、違う角度から見ることで面白さに変えることができます。腹が立つこともいっぱいありますけどね、そこから漫画のネタも出てきます。
自分もそうでしたが、あまり「こうでなくては」に縛られず、思い通りにいかないこともうまく自分と折り合いをつけながら順応できる、そんな人はハワイでの生活に向いているのかな、と思います。
−これからストーリーはどうなっていくのでしょう?
漫画の中の愛ちゃんもだいぶ大きくなってきましたからね…。来年には学校を卒業させて、その時に“サイバー・バニー”と会わせようかと。現実の娘はもう立派な大人でYouTubeの動画を制作しているんですよ(サイバー・バニーはそれを予感させる役目として漫画に登場)。サイバー・バニーと娘本人が合体したところで現在形の話にしていこうと思っています。私たちの夫婦の老後の話?にもなっていくかもしれません。「もうそろそろやめてくれ」と言われるまで続けていきたいです(笑)。
漫画に登場するのは友人、職場の同僚などみんな実在する人ばかりなんです。そしてネタもほぼ実話! 周囲の人の話に聞き耳をたて、フェイスブックを見たりしながら面白い話を拾ってきます。私はこれからもなに気ない暮らしの中で、身近でリアルな話を描いていきたいと思っています。
「気分はハワイアン」は自分にとっての人生の記録になっていくでしょう。振り返れば8年間も描いてきて、まるで自分の人生史のような漫画になった気がしています。
(取材・文 村田祐子)
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