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デジタル版・新聞

インタビュー

鎮魂から復興へ…大和田新氏インタビュー Vol.5

福島第一原発の現状。今は「被災現場」から「工事現場」と表現できるまで環境は改善されたという

 

今、福島から伝えることの大切さ

ハワイで2回の講演を終えた大和田新さん。残った人ができることは「忘れないこと」と訴える。でも、忘れないことだけでいいのだろうか? ハワイの人たちにも何か出来ることはないのだろうか。インタビューの最後に聞いた。(写真は大和田氏提供)

 

(インタビュアー:松尾 實直/日刊サン2016年8月16日)

 

大和田新(あらた)
1955年3月28日生まれ。奥様、長男、長女の仲良し4人家族。元ラジオ福島アナウンサー、編成局長。現在はフリーアナウンサー。

著作:今年9月『大和田ノート 伝えることの大切さ、伝わることの素晴らしさ』を上梓の予定。

座右の銘:「明日できることは、今日しない」。今日できることは今日一生懸命、全力でやろうということ。「ハワイの人はのんびりしているし、あした? どうやって遊ぼうかな、なんて考るんじゃないですか。楽しいですね、毎日が! 『明日できることは、今日しない』は、ハワイの人にぴったりかも」と、冗談も。

 

TVのチャンネルを変えると、お隣のチャンネルも変わる! 夫婦喧嘩も仮設は小声、毎年20人のストレス自殺

―震災で直接亡くなった方より、災害以降の震災関連死が圧倒的に多く、自殺者も毎年約20人も出ている。関連死とは一体何でしょうか。

 

大和田 福島県の場合は約4000人の死者・行方不明者です。だが、そのうち地震と津波で亡くなった方は1604人。ところが、震災関連死というものがあってこれが既に5月27日付けで2044人になった。  

震災関連死とは、原発事故による無理な避難から来るストレスで持病が悪化する、糖尿病が悪くなる、高血圧、痴呆症の進行、運動不足による異常肥満などですが、今一番深刻なのが自殺なのです。去年1年間、被災3県で震災関連死と認められた自殺が23人。内訳は、宮城県が1人、岩手県が3人、後の19人全員が福島県なんです。震災関連死は行政が認定します。浪江町の人が首を吊って死んだらそれを「震災関連死」と認めるのは浪江町なんです。  

ところが、前の日に夫婦喧嘩をした。その結果、奥さんが首を吊って自殺された。これは震災関連死と認められない。何で夫婦喧嘩したのかというと、狭い仮設住宅に押し込められて、薄い壁で話し声も筒抜け、テレビのチャンネルを変えると隣のチャンネルまで変わってしまう。大きな声でなんか喧嘩できない。夫婦喧嘩まで小さな声で押し殺して、ストレスがたまって、この仮設住宅の生活があと何年続くのか、皆、分からない。  

その不安、不満、怒り、これで突発的に首を吊ってしまうのです。これは夫婦喧嘩による死なんかじゃない。震災関連の自殺なんです。だから震災関連死と認められていない本当の震災関連死はもっとあると思いますよ。  

しかも、この仮設から出て行ってもその人が首を吊る。それは孤独死なんです。仮設住宅は良くないですよ。絶対に早く出さなければならない。でも、復興住宅ができました。そこに入ってくださいといっても抽選なんです。その住宅の人たちがまとめて復興住宅に引っ越すんじゃない。ぽつんと一人引っ越す。復興住宅に入ると今度は孤独が待っているのです。  

ご家族を亡くして、お父さんたちは朝から焼酎に牛乳を入れて飲んでいるんですから。奥さんを亡くし、子供を亡くし、仕事をなくして、何することもなくなって自分ひとり。そりゃ、朝から焼酎を飲んでしまいますよ。この人たちが孤独で自殺していくのです。  

行政はここまできめ細かに対応しなければならないのですが、追いついていない。

薄い壁で話し声も筒抜け、大きな声で喧嘩もできない仮設住宅

 

忘れないことこそが最大の支援。大太鼓の音よ、福島の海岸からNYに届け!

―最後に、ハワイに暮らす私たちが福島の人たちにいったい何ができるのかも含めまして、日刊サンの読者に大和田さんからメッセージをいただけませんか。

 

大和田 今回、原発事故も含めて地元で大きな災害があったので、私は人々の辛さ、悲しさ、命の大切さを発信していますけれど、21年前の阪神淡路大震災の時、私には何もできなかった。北海道南西沖地震の時も150人が亡くなったが、何もやれなかった。だから、私には偉そうなことはいえません。  

ただ、「忘れないこと」。忘れないことが最大の支援だと思っています。このことだけで本当に十分だと思っているのです。  

福島県にも有名人が一回だけやってきて、ご自身の節目のいろんなイベントをいっぱいやっていった。本当の支援っていうのは、被災地の人たちに耳を傾け、何が必要なのかしっかりと聞いて、それをすることが支援だと思うのです。でも、自分は歌が歌えるから歌なんだといって来る。本当に被災地の人たちが歌を聞きたいと思っているのなら支援でしょうが、そうじゃなくて、いきなり来て歌を歌うのは、押し付けでしょう。  

東北はこの5年4カ月、この押し付けを結構味わってきたのです。東北人はみんな我慢強い。ですから、いやだといえないんですね。今だに炊き出しに来る人もいるんですよ。もう炊き出しなんかとっくに終わっているのに。でも被災地イコール炊き出しと思っていて、炊き出しで残ったものはそこらへんに捨てていく。そういうのは支援でも何でもない。かえって迷惑なんです。  

まず、現地に来て、現地で感じたことをフィードバックしてくれれば嬉しいですが、なかなか現地にはこられないですよね。だから、やっぱり忘れないでいること、それこそが本当に大切だと思うのです。特に、ハワイの人たちが福島にくることなんてなかなかできませんからね。  

ニューヨークの9.11でも私たちは何もできなかった。それで今年の9月11日はちょうど日曜日なので、私の会津の太鼓を叩く友人を引っ張り出して、家族4人を亡くした上野敬幸さんの自宅の庭で、太鼓の演奏をNYに向けてやるんです。もちろんNYに届きませんが、気持だけは届くはずだ、と。これはNYの友人にも言っており、ユーチューブにも流そうと思っています。  

でも、彼らは福島の被災地には行ったことがない。だからまず彼らに被災地はまだこんなだよ、と被災地を見てもらう。そして家族4人を亡くした上野さんのお宅で線香をあげて、上野さんのお話を聴いて、そして上野さんの庭でNYに向かって叩いてもらうのです。  

会津の人でも被災地に行っていない人がいるのですから、ハワイの人が何もできないのは当たり前なんです。ただ、ひたすら忘れないでくださいね。

 

―長時間、ありがとうございました。

 

(おわり)

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