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デジタル版・新聞

インタビュー

自然染織家、テキスタイルアーテイスト 伊豆蔵明彦さん

ハワイの太陽と水を使って、メイド ・イン ・ハワイでなければできないものをつくりたい

-今回、ハワイで展覧会を開かれるきっか けは何だったのでしょう。

実は、2006年にテキサスのサンアントニオで展覧会をした時に、今ホノルルにいらっしゃる加茂佳彦総領事が、当時ヒューストンの総領事だったのです。

 

それで、ハワ イの総領事に就任された時にお手紙を頂戴して、ハワイでも同じような展覧会をやってみないかと声をかけていただき、さらにハワイ大学との橋渡しをして下さったのです。ハ ワイには、今回の展覧会とワークショップに先だって、一昨年の暮れから3回打ち合わせに来て、今回が4回目です。

 

 

-ハ ワイの印象はいかがですか。

実は、ハワイに着いてから毎日忙しくて、ほとんどどこも行く時間がなかったのです。先日ドリス ・デュークのシャングリラを見学に行きましたが、観光らしいことをしたのはそれだけですね。

 

2、3日前になって、ようやく、ハワイ大学の植物園で、テマリ・ハワイ のコーディネートによる‘‘キヌ&カパ”というワークショップを、ハワイのカパのアーティストとコラボして、10人ぐらいで行いました。それまでは、ワークショップでも、一方的にこちらから教えることばかりしていたので、ハワイのことを学ぶ機会がありませんでした。

 

ですから、その時初めて、ハワイの テ イストの作品づくりを通して、ハワイ独特の自然環境から生まれ育ったものを垣間見ることができたと思います。カパの保存に力を入れている人達のほか、ビショップ博物館や各分野のエキスパートが集ま っていて、非常に参考になりました。

 

 

-英語はお得意ですか。

いや、全然駄目ですけど、私は、言葉ではなくて、肌で感じて理解するほうです。今回のワークショップは通訳の方を介してやりましたが、通訳の方も、経済関係の方、美 術史関係の方、そして芸術家と、それぞれ分野の違う人が、いろんな角度からコミュニケーションの橋渡しをしてくれて、とても良かったです。

 

 

ーハワイで何かインスピレーションはあり ましたか。

ハワイに来て感じたのは、ハワイの人たちが、僕の考え方ととても近いことです。今の日本は捨てて当たり前の文化ですが、ハワイ文化の中には、自然と共生する持続可能への意識が根っこに残っているように感じます。人々の記憶の中にそれが生かされているのですね。

 

また、ハワイでは、強い太 陽と水のエネルギーがすごい速度で展開 している。今回は2月までの滞在予定ですが、これから1年間は、月に1度ハワイに来て、創作をしようと決めました。

 

ハワイ大学の植物園に協力していただいて、1年間創 作活動をしてみて、メイド・イン・ハワイでなければできないものを作ってみたいと思っています。

 

 

-創作活動だけをなさるのですか。

これからは、ハワイに来るたびに1週間滞在して、2日は植物園で過ごし、1日は、ホノルル美術館のリネコナ・ センターでワークショップを8月から1年間、12回続けて行う予定です。月謝は120ドルで、ハワイでは高すぎると言われたのですが、材料費が、どうしてもそのくらいかかるのです。

 

ですから、 生徒さんがあまり集まらなければ、それはそれでいいと思っています。でも、すでに3人ほど習いたいという人が出て来ています。先日は、11才の女の子がお母さんと一緒に来て、是非とも教えてほしいと言われています。

 

ワークショップでは、その人の持っているありのままを引き出したいと思います。日本でも月に一度、15名程度の人達を指導していますが、全国あちこちから生徒が集まって来ています。生徒さんの中には、今回も一緒にハワイに来た人達がいるのですよ。

 

また、4月29日には、ハワイ大学が、僕の 布を使ったファッションショ一を計画していますので、それも楽しみです。

 

 

ーハワイのカパについてはどのように感じ られましたか。

カパは素晴らしい技術だと思います。自然のエネルギーと時間の経過によって生 み出される。皮をむいてから 1~2か月置いて、そこでカパが出来る。

 

私は、時間の経過をもっと意識してはどうかと提案しました。カパのアーテイストは、既にそれを実行しているのですが、それは無意識にやっていた。それを意識してやってもらいたい。太 陽と水のエネルギ一を、もっと利用するべきだと思っています。

 

 

ーこれからも、ハワイとは長いお付き合い になりそうですね。

2年以内にハワイの人とのネットワークを作って、ハワイでものづくりをしたいと思 っています。今、ハワイ島で繭を作っている人が1人いますが、技術的な完成度がまだ低い。そこで、日本の大学の蚕の研究者の技術をハワイに持って来たいと思っています。

 

日本では、蚕の研究はあまり必要とされなくなっているので、ちょうど良いのです。ハワイには、すでに桑の木があるし、気候的にも、繭作りには理想的なのです。私の創 作活動は、常に変化してきましたが、ハワイ の自然の中で創作活動をすることにより、また全く新しいものになっていくだろうと思います。

 

 


伊豆蔵明彦(いずくらあきひこ)プロフィール

自然染織家/テキスタイル・アーテイスト。1942年、京都、西陣で何 代も帯を織り続けてきた旧家に生まれる。同志社大学進学と同時 に家業に携わるようになり、すぐに父から経営を譲り受ける。家業 と大学を続けながら、織物とは何かの研究を始める。経営が落ち洒 いて来た頃から、創作活動を開始。日展に何度も出品したが、化学 染料で染め、自然を絹み伏せてアピールする方法が、大きな慢心だ と思い当たり、自然と謙虚に向き合い、自然のものだけを使う自然 染織家に。これまで研究して来た染織技法をまとめ、独自の 「染織 道」を生み出す。国内外でワークショップや展覧会を行い、その思想 と作品は、内外で高い評価を得ている。


 

 

 

(日刊サン 2012.02.10)

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