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デジタル版・新聞

インタビュー

私たちは100年後のことではなく、1000年後のことを考えているのです

ジョシュア・ラナキラ・マンガウイルさん インタビュー

ハワイ島にある標高4205メートルの休火山「マウナケア」の山頂に、超巨大天体望遠鏡TMTを建設する14億ドル(約1600億円)のプロジェクトが現在進行しています。しかし、開発工事に関しては賛否両論さまざまな論議が交わされ、ハワイでは社会的な問題に発展しています。ネイティブ・ハワイアン団体や環境保護グループは、建設による環境破壊や環境汚染、貴重な固有種への影響を懸念し、工事の中止を求めています。ハワイアンにとってマウナケアは聖地であり、文化的に重要な遺跡が破壊される可能性もあるからです。工事の中止を求める声は、ソーシャルメディアなどを通じて急速に広まりを見せています。8月9日にワイキキで行われたデモ行進には、1万人を超える人が参加したので、見かけた方も多いのではないでしょうか?ジョシュア・ラナキラ・マンガウイルさんは、この活動の中心的人物のひとりであり、TMTへの抗議活動に当初から携わってきました。「ハワイアンにとってマウナケアはどんな場所なのか?」貴重なお話を伺いました。

 

 

ジョシュア・ラナキラ・マンガウイル Joshua Lanakila Mangauil

ハワイ島ホノカア生まれ。ハワイ語と英語を併用し、ハワイ文化に重点を置いた教育を行っているパブリックチャータースクール、カヌ・オ・カ・アイナ卒業。現在は、ハワイの文化やフラを教える教師として、ハワイだけでなく海外でも活躍している。  

 

昨年10月7日に開催されたTMTの起工式に「自分一人だけでも抗議に行く」と言って立ち上がり、数10人の賛同者と共に実際に起工式に赴き、工事の中止を求めた。これがきっかけとなり、マウナケアを守る活動は、1万人が集まるほどの大きな規模に現在発展している。

 https://www.facebook.com/joshua.mangauil

 

なぜこの活動を始めたのでしょうか?

ハワイの歴史を振り返ってみれば、ハワイアンとハワイの文化が、長い間抑圧されてきたことがわかるでしょう。私たちの母国語であるハワイ語さえ、法律で禁止されていたのです。学校でハワイ語を話すと、罰としてむちで打たれました。学校でハワイ語を話すことは、1970年代まで禁止されていたと思います。  

 

母国語を失うということは、自分たちの文化を失うことと同じです。祈りやチャント(詠唱歌)、物語、セレモニーの意味を理解することができなくなってしまうので、その結果として、自分たちの住んでいる場所とのつながりも失ってしまうのです。私は、ハワイの「ハワイアン・チャイルドスクール・ムーブメント」の影響を受けたひとりです。90年代に、人々の多大な努力によって、学校でハワイの文化を学ぶという動きが始まりました。これは、学校でハワイ語を禁止するという方針とは異なります。

 

ハワイの文化と西洋の教育を融合するというのが、このムーブメントの特徴です。私はこのような教育を受け、2004年に卒業しました。幸運にも、私は母国語(ハワイ語)を話すことができるので、母国語で自分たちの文化のセレモニーを行うことができます。これは、ハワイの文化を守るために、先人が闘ってくれたおかげです。ですから、私たちの祖先のために、正当な権利を取り戻すということは、私にとってひとつの方法なのです。  

 

私たちがマウナケアのために立ち上がるのは、私たちの祖先がこの山に祈りを捧げ、崇拝してきた場所であることを知っているからです。すべては私たちの先祖のためなのです。マウナケアという山を、私はそういう場所だと思い、祈りを捧げています。そして、すでに山で行われた大規模な破壊を見ると、痛みを感じるのです。私は山の痛みを感じます。なぜならば、私たちに伝わる物語で語られているように、山は私たちの兄弟、つまり家族の一員だからです。  

 

私がなぜこの活動を行っているのか?それは、ずっと先のことを考えているからです。私の子供の子供、そのまた子供というふうに、私は未来のことを考えています。そういうふうに未来について考えるように、私たちは教わりました。私たちは、100年後のことではなく、1000年後のことを考えているのです。  

 

私たちの祖先がこの島にやってきてから2000年以上の間、この山は保護されてきました。彼らは、山を破壊するようなことはしなかったのです。現在、とても短い期間の間に、山とのつながりが失われ、山ではあまりにも多くの破壊が行われています。そして、ご存じのように、山が破壊され続けていくのを私たちは目の当たりにしています。彼らは、山頂にさらに65基の天体望遠鏡を建設することを望んでいます。1000年後に、私たちの子孫たちが過去を振り返り、マウナケアがどのように見なされてきたのかを知ることができるように、私たちは、今、山を守るために立ち上がることができます。

 

ハワイアンにとってマウナケアとはどういう場所なのでしょうか?

 

マウナケア

マウナ・ケア(Mauna Kea)

ハワイ島にある火山のひとつで、ハワイ諸島最高峰。標高は4,205メートルで(富士山より高い)、海底から測ると10,203メートルの高さがあり、エベレストよりも高いといわれている。山頂付近は天候が安定しており、国際空港からのアクセスもしやすいという立地条件から、世界各国の研究機関が合計13基の天文台を設置している。日本の国立天文台が設置したすばる望遠鏡は、1999年から同地で観測を行っている。  マウナ・ケアはハワイアンにとって極めて重要な聖地であり、これ以上の天文台の建設をする場合は、既存の天文台を壊すという取り決めがあった。しかし、現在、新たな天文台の建設が進行している。

 

マウナケアの本当の名前は、「Mauna a Wakea(マウナ・ア・ワケア)」といいます。「マウナ・ア・ワケア」とは、天の神「ワケア」の山という意味です。ワケアは、天空の神であり、マウナ・ア・ワケアはワケアの子供ということになります。

 

マウナケアは、天の神ワケアと大地の女神「パパハナウモク」の子供として生まれた山なのです。つまり、天と地が交わるところ、それがマウナケアなのです。生命の創造をつかさどる神「カネ」が、太陽の姿で現れ、この美しい山を見て微笑みました。そしてカネの聖なる娘たちが、山に住むことになりました。その娘たちとは、「ポリアフ」「リリノエ」「ワイアウ」「カホウポカネ」の4柱の女神たちです。 「ポリアフ」は雪の神であり、「リリノエ」は霧、「カホウポカネ」は雷、そして「ワイアウ」は山の山頂付近にある神聖な湖の神です。この4女神は、すべて水の構成要素です。水はすべての生命の源といえます。

 

この山は、雪や霧といった様々な要素を通して、生命の源と深くつながっています。例えば、山に降り積もった雪から、わたしたちは新鮮な水をたくさん得ています。かつてこの山は氷河で覆われており、大量の水を蓄えていました。氷河は今でもありますが、現在は地下に沈んでおり、永久凍土となっています。また、私たちハワイアンの文化では、マウナケアはこの世界をつなぐ「ピコ(へその緒)」と考えられています。私たちがへその緒で母親とつながっていたのと同じように、この山は世界のすべてとつながっているへその緒なのです。そして、私たちを天とつなげてくれる場所でもあります。天から集めたたくさんのマナ(エナジー)が山に降り注ぎ、地上の私たちにもたらせています。山にあるすべての丘(クウ)には、すべて名前があり、それぞれが異なる役割を果たし、風のサイクルをコントロールしています。山頂にはこうした役割があります。また、この山には、私たちの先祖であるハワイアンの骨がたくさん埋葬されています。

 

 

今でもマウナケアで行われている儀式には、どんなものがあるのでしょうか?

ワイアウ湖

 

マウナケアでは、主に2つの儀式が行われています。ひとつは、へその緒を埋めるもので、これはマウナケアが天とつながるへその緒であることに由来しています。ハワイアンには、赤ちゃんのへその緒をこの山に持って行って埋めるという伝統があります。そうすることで、山とつながることができるからです。山は私たちと天をつなげてくれます。

 

また、私たちの伝統文化では、家族が亡くなると、山に埋葬するという風習がありました。つまり、たくさんの先祖が山に埋葬されてきたのです。私たちが山に行くのは、私たちの祖先とつながることであり、最も高い場所で天井の神々(アウマクア)とつながることでもあるのです。ハワイ全体では、家系や地域によって山で行われるセレモニーの種類は異なります。へその緒を埋めるのはそのひとつであり、先祖を埋葬するのもそのひとつです。現在でも一部のセレモニーは行われています。しかし、先祖の骨を山に埋葬することは、法律で禁止されてしまい、現在はできなくなってしまいました。それでも、たくさんの家族が、今でも灰などを山に持っていって埋めています。山は先祖たちの場所なのです。  

 

その他、今でも行われている伝統的なセレモニーには、水のセレモニーがあり、これにはたくさんの種類があります。ワイアウ湖では、たくさんの水のセレモニーが行われてきました。ワイアウ湖は、世界で最も標高の高い位置にある湖のひとつで、標高約13,000フィート(約3970メートル)に位置しています。標高の高い湖として、ハワイでは唯一のものです。かつてワイアウ湖は、天上の世界を見るための鏡として使われていました。伝統的なセレモニーでは、人々は自分の住んでいる場所から水を持ってきて、ワイアウ湖に水を捧げます。自分の住んでいる場所の水を山頂の湖に捧げることで、水のサイクルをつなげるためです。現在も失われないように私たちが保存に努めているセレモニーのひとつに、お葬式の行列があります。これは、海から歩いて山の上の湖まで登り、そこで水を捧げて、また歩いて山を下って海に戻るというもので、そこには生命の神カネのすべての姿が現れています。生命の源である水(=カネ神)の旅は、海から始まって、はるばる歩いて山頂に登り、そこからまた山を下り、大地を横切って海まで水を運ぶというものです。  

 

現在も、たくさんのファミリーが、雲の上という高い場所で天とつながるために、水のセレモニーを行っています。しかし、山の上に行くということは、ハワイアンにとって日常的なことではありませんでした。森林限界より上のエリアは、「ヴァオ・アクア(wao akua)」と呼ばれ、神の住む領域だったからです。人間(カナカ)は、神の領域には含まれていないので、山頂にとどまることはできなかったのです。人間は、セレモニーのときだけ山に登り、セレモニーが終わったらすぐに山を下りなければなりませんでした。人間が神の領域にとどまってうろうろすることはできません。山の上というのは、人間の場所ではなかったのです。最近、私たちは今まで以上に山の上に行っていますが、これは山を守るための一環です。マウナケアはすでに大きなダメージを受けています。いま、この瞬間にも、山はダメージを受けているのです。山にダメージを与えている人たちは、山を守るという観点で仕事に従事しているわけではないけれども、私たちは、現在も山の上で定期的にセレモニーを行い、祈りを捧げています。

 

TMT(30メートル望遠鏡)

TMTとは、マウナケア山頂に建設中の超大型光学赤外線望遠鏡。口径30メートルの主鏡(すばるは8.2メートル)を持つ、史上最大の地上望遠鏡である。従来の望遠鏡の限界を超える解像度・集光力・感度を実現し、新たな天文学の謎を解明することが期待されている。  アメリカ・カナダ・中国・インド・日本の5か国共同の14億ドル(約1500億円)のプロジェクトとして、2021年完成、2024年の観測開始を目指している。 国立天文台TMT推進室 http://tmt.nao.ac.jp/(日本語)

TMTってどれくらい大きいの?

●高さ約56メートル、地下6メートルで、地上18階建てに相当する。(※ハワイ島には18階建ての建物はありません)

●オフィススペースと駐車場は、約195平方メートル。

プロテクト・マウナケア/ アロハ・アイナ

ハワイアンにとって極めて神聖な場所であるマウナケアを保護する活動。活動に参加している人たちは、自分たちは開発への反対者「プロテスター」ではなく、山を守る「プロテクター」であると名のっている。基本的に「TMT反対!」ではなく、「アロハ・アイナ=愛のエネルギーで聖地マウナケアを守ろう!」というスタンスで活動をおこなってる。 ネイティブ・ハワイアンを中心に、さまざまな団体が共同で活動している。

 

(※天文台開発への反対自体は、最初の天文台が建設された1960年代からずっと続いてきた)

 

 

主な団体のHP

http://www.protectmaunakea.org/

http://kahea.org/

http://freehawaii.org/

 

日本語のコミュニティ

https://www.facebook.com/standformaunakea

 

(日刊サン 2015.09.12)

 

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