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デジタル版・新聞

インタビュー

玉子屋会長 菅原勇継さん

私もお客様の代表として必ず毎日玉子屋の弁当を食べています

玉子屋のお弁当は毎日同じ方が召し上 がることが多いです。ですから企業の栄養 管理も担当しているわけです。弁当は私も 社長もお客様の代表として必ず毎日食べています。

 

朝一番最初に作ったものと最後 に作ったものを両方食べ比ぺます。毎日食べても全然飽きないですよ。飽きるような らば弁当屋を辞めます。飽きないように週 に1回は白いご飯ではなく五目御飯などを 提供していますし、夏はソバ弁当もありま す。

 

自分が毎日食べられないものを、他の 人が食べられるわけがない。毎日食べていて健康なのは、あの弁当のおかげです。 弁当で重要なのはまずご飯の味。お米は 最上級のものを使用しています。

 

お米だけでなく食材は常に厳選しています。鮭ひと つとっても獲る時期及び場所にもこだわ り、品質の良いものを捉供できるように心 がけています。

 

天ぷらやトンカツも衣は薄くして、油も上質のものを使用します。合成着色料等は使用しておりません。漬物は八百屋さんの自家製です。私も食べるわけですから、手を抜いたらすぐに分かります。

 

それならば人気のあるものだけを提供すればいいと思うかもしれません。売れ筋だけ を商品化しているのが通常の弁当屋ですからね。しかし、当社ではあえて売れ筋ではな いものを入れています。

 

例えば魚をメニュー に入れると注文が減ります。特に若い方は、 魚があまり好きではないという人が多い。でも玉子屋さんのおかげで魚が好きになりま したと言ってくれる方もた<さんいます。

 

弁当の盛り付けは朝6時から10時まで などシフト制で、全員で100人<らいで担当しています。料理は、和風の専門・中華の 専門という風に、プロフェッショナルをス力 ウトしてきて人材を育成しました。

 

何か新しいものを作る時は全員でサンプリングを して選びます。その日の弁当がどうだったかを調査する のも重要です。配達から返ってきた車は、弁 当箱に何が残っているかすべてチェックし ます。

 

その日のテーマを決めて、例えば鮭な ら鮭がどれ<らい残っているかを、洗浄する 前にカウンタ一を使って数えていくんです。 実は、弁当のメニューは20年以上私が ずっと作っているんです。

 

綿密に作られたメニューは、お客さんを飽きさせないさまざまな工夫が。

 

過去のメニュ一を見 ながら色々考えます。これは単なるメニュ ーではなくてストーリーになっているんです。今日は洋風だから明日は和風にする、という風に変えていも自分が食べたいと思うものを季節の旬に合わせて献立を決め るんです。

 

頭の中には何千というメニュー が入っています。ハンバーグの味付けだけでも何10種類もありますよ。 メニュ一を考えるのは単に料理を選ぶだけではありません 。調理の流れや鍋釜の 数、誰が何を担当するということまで頭に 入っていないとできないんです。

 

栄養士に 頼んだらすぐに演れてしまうでしょう。今は 若い人が育ってきていますから、安心して任せることができますね。 今までには、米のない時期、砂糖のない時期、油 ・ 粉•野菜 ・肉・魚がない時期など 全部ありましたが、それをすべて乗り越えてきました。

 

野菜などは市場に出荷される 前に仕入れたりしています。7万食の食材 を確保しなくてはならないわけですから、 最大限の知恵を絞るわけです。 7万食を作ることができるのは、500食 ・1000食 ・ 1万食という風にだんだん増えて行ったから。

 

今、急に7万食作ってくださいと頼まれてもそれは無理でしょうね。だんだん出来上がっていったシステムですから、このノウハウを真似することはできないと思います。

 

 

生まれてきただけでもラッキーなんだから、つまづいたって失敗したってそれを活かせばいい

玉子屋は順調に成長してきましたが、ピンチがなかったわけではありません。25年 ほど前、1日 1500食を扱うようになった時 に、食中毒の事件を起こしてしまったんです。しかも、それは500食を配達している一 番のお客様のところでした。

 

テレビでも報道され、ガクンと売上が落ちてしまいました。あれが一番つらい時でしたね。普通だ ったらそこで終りというところです。とにかくお客様に謝りに回りました。

 

従業員には「給料が払えなくなるかもしれないから、辞めたければ辞めてもいいよ」と伝えたのですが、元悪ガキたちは辞めず に支えてくれました。これは本当にありがたかったですね。

 

お客様からは 「社長も面白いけど社員も面白い会社だから、もう一回チャンスをあげよう」と言って頂けました。そこからは本当に義理人情の世界です。お客様のために 衛生面に最大の注意を払い、本当に美味しいものを召し上がつて頂くために努力し ました。

 

努力の結果がロコミで今まで以上 に広がり、その後玉子屋は何千食、何万食と成長していきました。玉子屋が大きくな ったのは食中毒の事件のおかげです。

 

ところが私は50歳で腎臓癌になってしまいま した。腎臓を片方取って、生きるか死ぬかという状態です。覚悟をした時に、 「企業とは 何ぞや?」 「今まで何のために仕事をしてきたのか?」ということを病院で考えました。

 

その時にふっと答えが分かり、欲というも のがなくなりましたね。とにかくすべてお客様のためにやって行くことを決意しました。 その頃、妻の薦めで童門冬二の『小説 ・上杉鷹山(うえすぎようざん)』を読み、「これだ!」とひらめきました。商売というもの が本当の意味で分かったんです。

 

上杉鷹山 というのは米沢藩の再建に尽力した人物。人の心に火種をつけて、潰れそうな貧乏藩を蘇らせたんです。人をやる気にするには どうすればいいか? 「人の心に火をつける」 これしかないんですよ。

 

火鉢の中に少しでも火が残っていたら火をつけることができ るんです。会社もそう。一人一人のやる気に 火をつけて、フーフーと息を吹きかけると、 火種が大きくなって、最後には火鉢全体が 熱くなる。

 

この本は従業員全員に勧めて読 ませています。皆変わりましたよ。悪ガキたちが皆成長しました。 私は苦労をしたと思ったことはないんです。苦労して「大変だ大変だ」と言っていても駄目ですよ。何億という精子の中の1つ からこの世に生まれてこれただけでも、も のすこくラッキーなんですから。

 

つまずいた って失敗したって、それを活かせばいいんです。何をやるのも楽しくないとね。私の場合は遊びが全部仕事に結びついています。 それから出会いも大切にしないとね。楽しくなるような出会いをすること。

 

玉子屋が日本ーになった理由は食中毒 事件、病気、それから二代目が会社を継いだことです。息子は私以上に能力がありま す。立教大学の野球部で副キャプテンを務め、下積みをしてから玉子屋に入社しました。

 

私は悪ガキを集めてという方法でした が、息子は野球を通して人との接し方を学 んできたわけです。息子が跡を継ぎ、玉子屋 はさらに大きく発展することができました。

 

これからは色んな方と知り合って、面白いお付き合いをしていきたいですね。それ が夢です。会社はすべて息子に任せていま す。創業当初からの社員はもう定年を迎え る人がほとんどですが、今もたくさんの方 が頑張って働いてくれています。

 

できる限り の力を発揮してくれている姿を、若い世代 が見て「自分たちもあんな風になりたいな」 と思ってくれるといいですね。

 

 

実はハワイで商売をやるつもりだった

ハワイでは最初は商売をやるつもりだったんですよ。20年以上前ですが、クヒオ通 り沿いにいい物件があって、何か商売をし ないかと紹介されたんです。弁当屋か立ち食いうどんを考えていたんですが、結局お店を見ただけで終ってしまいま した。

 

人任せにしてしまうと絶対駄目なんですよね。自分でやるならいい のですが、任せてビジネスをやるとなるとリスク が高すぎる。それからハワイは遊ぶところと決め ました。それがきっかけになって、ハワイに来るようになりました。年間に3回、1回にだいたい1ヶ月くらい滞在しています。

 

 


菅原勇継(すがわら いさつぐ)

1939年生まれ。都立京橋商業高校を卒業後、1957年富士銀行に入 行。 1962年に退職・結婚し、魚屋を始めて成功する。1975年36歳で 玉子屋を創業し、仕出し弁当事業に進出する。

 

1997年息子・勇一郎が 玉子屋に入社。2004年父・勇継社長から会長へ、息子・勇一郎が社長 に就任。現在、玉子屋は都心を中心に1日平均7万食の弁当を配達している日本一の弁当屋となっている。

2012年1月には、作家・村上龍が考える「優れた経営者」の中で、村上氏自身が最も影響を受けた経営者として、50代はソフトバンクの孫正義代表取締役社長 60代はファ一ストリティリングの柳井正代表取締役会長兼社長、70代は玉子屋の菅原勇継会長が挙げられている。未上場企業の経営者としては異例の快挙である。

http://www.tamagoya.co.jp/ 


 

 

 

(日刊サン 2012.03.23)

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