道化をテーマに新作舞踊を発表
本業では“貴雅の会”を主宰し、創作舞踊を発表し続けている。
最新作は『一休と義政』で、一昨年行われた会は文化庁芸術祭参加公演にも指定された。
「僕の創作舞踊のテーマは“道化”です。権力や体制を真っ正面から批判するのではなく、ひねくれたり嘲り笑ったり、強権や世の中の矛盾を感じさせる、人間味のある道化を踊りの中で表現したい」
シェークスピアにも蜷川演劇にも通底するテーマだ。
「禅の中にも道化と思われる問答があります。創作にあたり京都に通い詰めて、修学旅行生のように一日にいくつものお寺を回っていた時、酬恩寺に巡り会いました。一休和尚が晩年まで過ごし、永眠している墓所もあるお寺です。そこで一休さんの風狂とも言える人生と道化が結びつき、『一休と義政』が生まれました」
DVDを観せてもらったが、これがめっぽう面白い。
構成は日本舞踊の踊りと台詞による舞踊劇。
歌舞伎のような大道具小道具はなく、小僧がお茶を点てるのも美しい踊りによって表現される。
一休さんを踊る貴雅さんの踊りは重厚な古典の型に則ってはいるが、道化を表す身のこなしや足元の軽やかさは絶妙だ。
ムーンウォークのように時に無重力で、それが幽玄な心象世界を表している。
ラガーマンどころか踊りの名手なのだ!
ハワイで貴雅の『知盛』圧巻の大車輪
「昨年、リトアニア公演でも歌舞伎の演目をダイジェストに演じまして、大変喜んでいただきました」
今回のハワイ公演でも披露された勇壮闊達な獅子舞のことだ。
「カツラと衣裳合わせて10Kgほどもあるので、海外公演の時は飛行機の荷物の重量を調整するのが一苦労なんですけどね(笑)」
リトアニア、エストニア、ラトビアのバルト3国や中国の大連など、世界7カ国20カ所に獅子のカツラと衣裳を持参した。
貴雅さんはハワイ公演で、大好きだった中村富十郎さんの代表作の一つ、『船弁慶』の後半部分を抜粋して振り付けや演出を創作。
『知盛』と題して台詞入りで演じ、踊った。歌舞伎独特の化粧方法である“隈取(くまどり)”をして演ずる、豪快で力強い芸だ。 「知盛は平家ですので、勇壮な中にも品を出すような隈取や衣裳です」
なにが驚いたかというと、貴雅さんの声量。大きい声とかよく通る声という以上に、厚みと波動がハンパない声なのだ。
歌舞伎の褒め順に、一声、二顔、三芝居なんて言い方があるけれど、まさしく声が真っ先に素晴らしい。
「衣裳で締め付けているので、声を出しにくいんですが、腹式呼吸は常日頃から実践して鍛えています」
大車輪の15分間!
平一族と知盛自身をも滅ぼした源義経。
霊となってまで怨念を晴らそうとする知盛の気魄が圧巻で、まばたきをするのも忘れるほどに引き込まれた。
歌舞伎なら1時間の演目だが、エッセンスだけを昇華させた舞台は、強烈な余韻を残して幕となった。
そしてやんやの喝采の中、知盛の姿のまま貴雅さんが舞台に現れ、アンコールの代わりに、見栄(みえ)の切り方を観客に指南した。
手を振りかざして首を据え、たっぷり客を睨みつける大ポーズ!
客席は総立ちで貴雅さんの真似をし、互いのヘン顏を見せ合って大ウケだった。
貴雅さんは歌舞伎に精通し、日本舞踊の古典の型も熟知している。
所作振り付けのプロでもある。
だから現代人に合わせて、長い歌舞伎の演目のいいとこ取りをする才覚がある。
歌舞伎はもともと“傾く(かぶく)”という言葉が語源になっているそうで、これは今でいう“とんがっている”という意味だ。
歌舞伎は400年の歴史ある古典芸能ではあるが、いつの時代にも最先端の研ぎ澄まされた部分を取り入れながらアップデイトされてきた。
ならば、貴雅さんが創作上演しているものも、限りなく歌舞伎とボーダレスなのではないだろうか。
とくに海外に持ち出しやすく、上演時間もコンパクトで、見栄の切り方など異国の観客との交流も巧みだ。
もっと海外で公演を通して交流したい
「日本の伝統芸能を僕たちの手で、海外に広く伝えたいという思いは強いです。そのためにNPOハーモニージャパンを立ち上げました。ただ、海外公演はものすごくお金がかかるんです」
演者スタップの交通費、滞在費、歌舞伎ほどの大道具はないものの、衣装やカツラ、小道具の運搬費、そして現地での会場を借りるのも膨大なお金がかかる。
こんな裏方の手配も貴雅さんの仕事なのだという。
「今回のハワイ公演も、国際交流基金とアーツカウンシル東京の助成を受けて実現しました。
この5年間、ハワイ各地やバルト3国、中国などで海外公演の実績を積み、現地の皆さんとの交流も深まってきました。
外務省の研修センターでその報告会もして、役人の中にも理解者は増えています」
ならばぜひ、2019年もハワイ公演も実現してください!
「はい、約束します。ハワイ公演は僕のライフワークの一つになりそうです」
道化という幽玄を舞い、荒事師の声で迫る日本舞踊の名手、希有な創作振付師に新たな名代が加わった。
(日刊サン 2019.01.01)