聖心女子大学の教授であり聖心会のシスターでもある鈴木秀子先生は、エニアグラムを日本に初めて紹介し、脳医学にも造詣が深いことで知られています。著書『死にゆく者からの言葉』がベストセラーとなり、人々に深い感動を与えて話題となりました。 「人生の意味」を考える講演会やワークショップを世界中で行っており、今回ハワイでの講演が実現しました。 「死」について考えることで「生きる意味」が見えてくると説く鈴木先生に、これからの時代の生き方を教えて頂きました。
幸せな人が成功する
楽しいことに焦点を合わせると、人はどんどん良くなっていく
元気で幸せに生きている人たちが、楽しいことを考えると、体が健康になって幸せになれる物質を脳が出します。ですから、脳の中に良い回線ができるような習慣を自分につける必要があります。
その一番簡単な方法は、寝る前にその日に起こった良いことを3つくらい思い出して感謝することです。それを6ヶ月くらい続けると、自分でも気づかないうちに周りの人が皆良くなっていきます。周りを変えようとしないで自分が変わると、周りも自然に良い人が集まってくるのです。
それはなぜかというと、良いことに焦点を合わせる訓練ができたからなのです。不満や愚痴ばかり言 っている人のそばには、だんだん人が集まらなくなってきます。 この10年で脳科学が発達し、自分を訓練するということは、「脳に良い回線を作る」のと同じことだというのが分かってきました。
これはコンピューターの発達よりも大きな功績ではないでしょうか。日本では脳科学がとても発達しています。私は脳科学の第一人者という人たちと親しくしているので、「脳にどんな回線を作るかが、その人を作り上げている」とよく聞いていますし、本当にそうだと確信しております。
ではどのようにして良い人間になればよいのかというと、意志の力では駄目なのです。意志の力で頑張るのではなく、楽しいことや愉決なこと、喜び、感謝など良いことに焦点を合わせていくと、人はどんどん良くな っていきます。
逆に、いつでも病気の話ばかりしている人は、病気に焦点が合っているので病気になる可能性が非常に高い。例えば、医学部の学生は65%が 「自分が病気になったと 思う」と言われています。あらゆる病気にいつでも焦点を合わせているからです。
ですから、良いことに焦点を合わせるのは重要な訓練です。 しかし人間は悪いことの方に焦点が合って行くものです。一日中良いことがあっても、一日の終わりに誰かに悪いことを言われたら、大きく落ち込んでしまいます。
人間は悪いことの方を強く感じるクセがあるのです。それは、川を下っていく方がラクで、 川を上る方がつらいものだからと言えます。良いことを見つけるのは、川を上っていくようなものなのでエネルギ一を使います。
しかし、エネルギーを使わなくても、悪いことはどんどん自分の中に取り入れることができるのです。ですから、そういう傾向に気づいているかどうかで随分変わります。
会う人ごとに 「この人はなんて嫌な人なんだろう」と思っていたら、一週間以内に皆があなたのことを嫌いになります。逆に 「この人はなんて素敵な人だろう」と思い、良いところを見つける訓練をしていくと、6ヶ月 後には周りの人が皆あなたを好きになります。
自分が脳にどんな思いを送るかによって、体にあふれるエネルギーがそれ程変わ ってきます。自分の中で幸せ感を味わえる人が、周りも幸せにしていくことができるのです。
「リフレー ミング」とは、嫌なことの中にも良いことを見出していく訓練
誰かと喧嘩して嫌な気分になったら、感情を変えようとしても駄目です。感情は変えられないけれど、人間には「感情」と 「頭」と 「体」があるわけです。嫌な気分になったら、 外に出てできるだけ速く歩きましょう。座っていては駄目です。
そして 「楽しい、楽しい、 愉決だ、嬉しい」と繰り返し言ってみてください脳は判断を下さないので、 「楽しい」と言えば良いモルヒネを出します。家の周りをぐるっと一周してくる間に気持ちが落ち着きます。そうやって頭を切り替えることを「リフレーミング」と言って嫌な事柄の中にも良い事を見出して行く訓練です。
気持ちが落ち込んで悪い方に流されている時に、感情を変えることはできませんから、とにかく外に出て何も考えないようにすることです。なぜ瞑想がこんなに流行っているのかと言えば、それは 「頭を切り替えられる」からです。
嫌なことを考えていると、ストレスがどんどん体に溜まってきます。だからストレスを失くそうとするのではなく、嫌なことに焦点を合わせないようにすること。自分を空っぽにすることが瞑想です。 「今日はいい天気ですね」と言う人と 「今日は暑くって」と言う人は、人生が変わってきます。
「暑いな」と感じても、 「天気が良くて歩きやすくて良かった」と思うと、脳から出るモルヒネがストレスになる場合と快適な場合でまったく違ってきます。ですから、嫌なことを思ってもすぐに良いことに置き換える必要があります。
「今日は風が強いな。でも洗濯物が良く乾くな」という風に、悪く思 ったことをすぐにひっくり返して良い面を取ると、身体が良い方に変わっていきます。
嫌なことが浮かんでくると身体が重くなります。嫌なことは考えないようにしようとすると、かえって考えてしまいます。嫌なことは浮かんでくるままにして、身体が重くな ったり辛くなったりしたら、すぐに空を見たり、足元の草を見ると良いです。
「なんて素晴らしい青空だろう」「草も元気だなあ」と 思うと、だんだん元気が出てきます。そして深呼吸をする。そんな簡単なコツを覚えておくと良いです。 幸せになるコツは立派な人になることではなく、今ここで小さな良いことに目を向けること。その積み重ねなのです。
家族で寝る前に 「一日無事に終って良かったね」 「今日もご飯をありがとう」と、気持ちを添えて良いことを認め続けると、家族の間に大きなギャップが出なくなります。20秒でいいんです。そして2分くらい何か良いことをする。
家 族にお茶をいれてあげるとか、話を聞くとか、これを 「20秒と2分」と言います。大きな事を目指さないで小さなことが大事なのです。 ビル・ゲイツのように成功した人を世界中からたくさん集めて、成功した理由を分析したところ、唯一共通していたのは「必ず成功するという根拠のない楽天主義」だったそうです。
彼らは「成功する」という刺激を脳に与えていたのです。成功した人が幸せなのではなく、幸せな人が成功するということが良く分かります。 脳科学の研究が始まったのは20年ほど前。発展してきたのがこの10年。
一般の人にも分かるようになってきたのはこの2・3年です。脳科学の発展は今後もっともっと人類に寄与していくと思います。