サン
写真集『KIPUKA』の中で私が見て衝撃的だったのが、家族写真とサトウキビ畑の写真(下)です。人物はカメラに正対し、白地の部分にサトウキビが透過されている。合成ではないんですね。トークショーで撮影方法を説明してくださいましたが、サトウキビ畑に家族写真をプロジェクターで投影し、長時間露光で撮影するという、すごい手の込んだ写真でした。
愛
あの写真は、私がお墓を探して撮影しているのをみんなが知り始め、マウイ島のサトウキビ畑の中に古い本願寺のお墓が見つかったと教えてくださり、見に行くことになりました。
その前の日に家族写真を目にしていたのですが、サトウキビ畑を見た瞬間に、ここにかつて住んでいたという家族写真がぶわっと私の中で浮かび上がったんです。その光景を写真に収めるにはどうしたらいいか、を考えてあの方法を思いつきました。
FUKUSHIMA ONDO, Shosuke Nihei, Kailua Camp, 2016 |
サン
映画『盆唄』の監督は「ナビィの恋」(1999年)などの作品で知られる中江裕司さん。中江監督に何年にもわたり演出を依頼し続け、やっと実現にこぎ着けたそうですね。迫力のある映像、唄、ストーリー展開。ダイナミックなラスト20分の太鼓の音色。とにかく圧巻で、2時間を超える大作なのにあっという間。最後まで圧倒されっぱなし。すごいの一言でした。
愛
盆踊り、盆唄という、音楽とこのテーマを映画として制作してくれるのは、中江監督以外にはいないと思っていました。観客の皆さんの反応を、制作に関わったすべての方に見せたかったですね。こだわった部分のすべてに対し、観客の皆さんはじゅうぶんに受け取ってくれていた。うれしかったです。
サン
このプロジェクトはどうなるのでしょう?
愛
もう来ませんとは言えませんからね(笑)。ハワイ約90のお寺で開催されるすべてのボンダンスを見たいと思っています。これって私一人で撮っているのではなく、本当に多くの助けてくださる方がいてできている。
たくさんの先祖に見られている気がするし、襟を正してちゃんとしなきゃって思います。いつか、私が関わっているこのプロジェクトを一堂に集めたい。映画、写真、盆踊り。ハワイやアメリカ本土、世界中に紹介していきたいです。
サン
愛さんの夢はなんでしょうか?
愛
もともと映画は、一生に一本は作りたいと思っていたので、それは実現しました。私は写真家なのですが、じつは日本で写真作家として生きていくというのは本当に難しい。ですから、写真作家でやっていきたい。
サン
最後に日刊サンの読者の方々にメッセージをお願いします。
愛
ハワイってほんとに奇跡のような場所。そこに暮らしている皆さんがうらやましい(笑)。
私はハワイに来ることで、日系人の中に息づく先祖への想いとか、藪で見つけたお墓とか盆踊りを知ることができた。ここまで惹かれたのは、ハワイという土地の持つ力のすごさ、先祖の魂が感じられる場所があちこちに点在し、残っている。
そういうハワイに通ったからこそ、考えられたテーマだったと思っています。私はハワイでお墓のあるような場所で過ごすことで自分の成長にすごくつながった。目の前に現れるものにただ必死で向き合うことが写真だと思っていたのですが、盆唄と出会い、ハワイの日系人からは五世代にも渡る先祖や移民の背負ったものを。
福島の方からは途絶えてしまうかもしれない故郷や文化、希望を未来に託すことを教えてもらった。いま、過去と未来が連なって、それがかけがえのないものだと知りました。ハワイにいらっしゃる皆さんにも、映画を観ていただく機会を作りたいですし、写真集を手に取り感じていただければ幸いです。Let’s Bondance!
映画『盆唄』は、ハワイ上映が決まり次第、日刊サンWebなどでお知らせいたします。
岩根愛 いわね・あい
写真家、東京都出身。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学、オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、アシスタントを経て1996年に独立。2006年以降、ハワイにおける日系文化に注視し、2013年より福島県三春町にも拠点を構え、移民を通じたハワイと福島の関連をテーマに制作を続ける。2018年、初の作品集『KIPUKA』(青幻舎)を上梓、第44回木村伊兵衛写真賞受賞。
映画『盆唄』オフィシャルサイト
www.facebook.com/bonuta.hawaii/
写真集『KIPUKA』はハワイ日本文化センターで販売している。
価格$70(税別)
ハワイ日本文化センター 2454 S Beretania St.
(808) 945-7633
(取材・文 鶴丸貴敏)