「波長が合う」という言葉がある。BEGINとハワイの関係は、まったくもってその通り。波長が合うのだ。このハワイという地に流れるアロハな空気感に彼らの音楽の波はぴたりとはまる。なんの違和感もなく、すうっと溶け込み心地いい。
3人のメンバー全員が沖縄の離島、サンゴ礁に囲まれた美しい楽園「石垣島」の出身者だというBEGIN。つい先ごろ行われた「JALホノルルマラソン2015」の公式テーマソング「BlessingRain」を歌うオフィシャルアーティストとしてマラソンの前々夜11日、「ホノルルマラソンルアウ」に登場した。
ダイヤモンドヘッドの麓、カピオラニ公園の一角にある「ワイキキシェル」は全席の約半分が芝生席となっている野外ステージだ。彼らと彼らの音楽は、ハワイのさらりとした風に溶け込み、たっぷりの緑の香りと調和し、ハワイ独特のゆるりとした島時間の流れる夜に極上のサウンドを響かせ、観客は楽器のように彼らの音楽に共鳴していた。
ハワイには恩がある―遠く言葉は違っても虹のたもとの島と島
沖縄とハワイの繋がりはとても深い。ハワイの日系移民には沖縄から来た人々も多く、戦後まもない頃、太平洋戦争の最激戦地として焼け野原となり食べるものがなくなった沖縄に、ハワイの沖縄県人会がラジオで寄付金を募り、豚を550頭、ヤギを700頭も贈って母国、母県を救ってくれたのだ。
「ハワイと沖縄の関係って本当に強くて、僕たちはハワイにはとても恩があるんですよ」
ライブMCでそう語っていた彼ら。
「豚料理は沖縄のお祝いの時には欠かせないので、沖縄で今もお祝いが
できるのはハワイの方々のおかげなんです」
「遠く言葉は違っても 虹のたもとの島と島」―ルアウでも演奏された「ウルマメロディー」は、そんなハワイの「ウチナーンチュ(沖縄の人)」の「ちむぐくる(まごころ・思いやりの心)」に感謝し、沖縄とハワイの繋がりを歌った歌だ。
インタビューでも「ハワイへの感謝の気持ちは、いつもあります」と語る彼ら。
比嘉―実はうちのおやじもハワイに移民に行きたかったらしいんですけど、石垣島からはいけなかったそうなんです。沖縄本島から、夢を持って多くの人がハワイに渡って、ここまで根付かせていただいているというのは本当にありがたいですよね。
多彩な文化が交り合う現在のハワイ。日本の文化とはまた別に、沖縄独自の文化もしっかりとハワイに根付き、日系人の中で沖縄系の人々は「オキナワン」と特別な呼ばれ方をすることに驚いてそう語る。
遠く離れていても、僕たちは繋がっている
やわらかい沖縄独特のイントネーションで話す彼ら。それが彼らの人柄の良さをひきたてる。国際的に活躍し、日本を代表するバンドになった今でも、人との絆を大切にし、人への感謝の気持ちを常に忘れない。そんな彼らの姿勢が、今回のライブで「琉球國祭り太鼓ハワイ支部」による沖縄伝統芸能エイサーとハワイのフラハラウ「カ・イプ・ハア・オケカウイラニ・ナ・プア・ハラ・オー・カウアイ」や「ナー・プアケア・オ・コッオラウ・ポコ」などによるフラとの共演を実現させた。
比嘉―初めてハワイに来た2004年からずっと交流があるクムフラのプナさんと今回お会いした時「もしかして“涙そうそう”踊れます?」って言ったら「できる。できる!」っていうから急遽お願いしたんです。びっくりしましたよ。まさか生徒さんたちがみんな僕たちの曲を踊れると思っていなかったので。プナさんが最後にステージに出ていらした時には僕も感動して、うるっとしましたね
「琉球國祭り太鼓」のみなさんとは僕らがハワイで公演する時に何度か一緒にやらせていただいています。ハワイの方がエイサーに憧れて、沖縄の方がフラに憧れるという話を聞いていたので、みんなが垣根なく一緒に演舞できたらいいなと思ったんです。
10月にリリースされた彼らの最新アルバム「Sugar Cane Cable Network」でも、「さとうきびを見て、ブラジルやハワイなどに沖縄から渡った移民の皆さんとの交流を思い出した。彼らのそばにも僕たちのそばにも“さとうきび”がある。遠く離れていても、僕たちは繋がっているんだ」という想いからこのタイトルが付けられたという。
ハワイが生み出した音を奏でるMakanaとの再会
人との繋がりという点では、今回彼らが楽しみにしていたのは、同じくルアウに出演したスラックキーギターの名手「Makana」との再会だという。
比嘉―「Makana」とは10年ほど前に取材で会って、ちょうど同じくらいの世代だったので通訳を介していろんな話をしました。久しぶりに会えて嬉しかったですね。今回のハワイ滞在で僕が一番嬉しかったことかもしれない。
島袋―「Makana」も名人だからね。スラックキーギターの若手では第一
人者じゃないかな。
比嘉―凄い人だと思います。スラックキーギターの音って世界のどこにも
ないもので、ハワイという土地が生み出した音楽。ハワイの空気にスラック
キーの音色ってすごく合いますよね。
彼らの音楽も沖縄という風土が生み出したもの。やはりその地の文化をたっぷり吸いこみ、土地の香りを感じる音楽というのは否応なく人を惹きつける。
「ぼくらは音楽で一緒に走っているよ」ランナーの心に寄り添える曲を
「ホノルルマラソンルアウ」で彼らが歌った大会の公式ソング「Blessing Rain」。「走れるぐらいだったら、音楽やっていませんよ」と冗談で会場を沸かせつつ、「いろんな想いを抱えて走るランナーの気持ちに寄り添えるよう、背中を押せるように」とこの曲に対する想いを語った。
夢中で走っていたあの頃―青春を思い起こさせるキラキラと疾走感のあるこの曲には「ぼくらは音楽で一緒に走っているよ」というメッセージが詰まっている。この曲をずっと聞いて、勇気をもらいながら走ったと語ったランナーもいた。
マラソンの経験もなく、制作依頼を受けた時は迷ったそうだが「ハワイの沖縄県人会への思いもあり、恩返しとして引き受けた」。今回BEGINのマネージャーがホノルルマラソンを走り、メンバーがそれをあたたかく見守っていた。
極上のバラードと観客総立ちのカチャーシー 熱狂の夜
ライブの最後を締めくくったのはハワイのローカルの人々にも人気の高い「島人ぬ宝」、「涙そうそう」の極上のバラード2曲。波間をただように優しく穏やかで心地よい音楽と、説得力と包容力を合わせもった温かみのある声が、ハワイの夜空にのびやかに広がって溶けていった。20代の女性の観客二人が「(このライブを聞けて)今までで一番嬉しい」と感極まった様子で手を取り合っていたのが印象的だった。
アンコールでは一転、「こんなにしんみり終わるのもどうかと思ってましたよ!」と叫び、アップテンポでノリのいい「かりゆしの夜」を熱唱する。
すると、不思議なことが起こった。これまで様々なアーティストの曲をゆった
りと楽しんでいた観客が、全員総立ちになってカチャーシーを踊りながらステージ前に押し寄せる。
比嘉―あれは凄かったですね。急にあんなに盛り上がるから僕らもびっくり
して。それまでゆったり聞いていらしたから、みなさんマラソンに向けて体力
をセーブしているのかと思ってました(笑)。それはもう正直嬉しかったです。
熱狂の中ライブは終了。「最高だったね」「いやー楽しかった」「来てよかった」と最高の音楽のプレゼントとマラソンに挑む勇気をもらった観客は興奮しながら会場を後にした。
沖縄とハワイを繋ぐメロディー
今回のハワイでの体験が、また彼らの曲に反映されることはあるのだろうか。
比嘉―ウクレレを使って、新しい歌が歌えるのは、なんていうかハワイが近くなった気がして嬉しいですよ。僕なんかがウクレレ弾いちゃっていいのかなって思っちゃったりするんですけど、こうやってハワイで友達もできたし、弾いても大丈夫かなみたいな(笑)。僕らがコンサートでウクレレを弾くことによって、日本の子どもたちが、あの楽器なんだろうって思ってくれたら、また繋がっていけるのかなと思いますね。
人気者になっても謙虚な心を忘れない。彼らの音楽が人を魅了するのは、彼らの優しさや温かさがその音楽に表れているからなのだろう。ハワイの日系社会のなかで、沖縄
だけが、今も母県と強固な繋がりを持っていると言われている。BEGINのメンバーも沖縄県人会への挨拶は欠かせないという。
比嘉―帰る前に(沖縄)県人会の方にちょっと挨拶しにいきます。それがないとちょっと怖いですもの。
島袋・上地―ははは
比嘉―後で怒られる(笑)。でも、パーティー開いてくれて、ありがたいですよね。
今年はハワイ州と沖縄県が姉妹都市提携を結んで30年。ハワイには多くの県民が移住した歴史があり、姉妹都市提携の理由となっている。10月には沖縄系日系3世のデービッド・イゲハワイ州知事が記念式典に出席し、「沖縄とハワイはファミリーだ。関係
がいつまでも続くよう祈念している」と語っている。そんな州知事の願いに応えるようにBEGINが音楽によって、ハワイと沖縄の絆を更に強固に繋いだ今回のライブとなった。
自由で温かい歌声。優しさが心に染みてくる彼らの音楽は国境を越え、海を越え、多くの人々を魅了する。そしてこれからも音楽で人と人、国と国を繋いでいくのだろう。
最新アルバム
「Sugar Cane Cable Network」
2015.10.28 on sale
1.Blessing Rain (※JALホノルルマラソン2015
オフィシャルテーマソング)
2.アサイーボウル
3.海の声 (※au三太郎CMソング BEGINバージョン)
4.憧れのアンダー
5.アロハの花 (※スパリゾートハワイアンズ ポリネシアンショー ポリネシアン・サンライト
カーニバル「MATSURI」オープニング曲)
6.僕だけの愛で出来たうた
7.黄昏のリベルダージ
8.俺は嫌って言う
9.Rogan’ Roll
10.サーファーに傘は要らないのさ
11.ハンドル (※NHK「ラジオ深夜便」2015年7月~9月 深夜便のうた)
12.朝焼けの情景