海外赴任と日本の広報室の勤務を繰り返し、5回目の在外でハワイに赴任。365日休まずに働き、おもしろいことをしよう、お客様を喜ばせようと、自らサンタクロ一スにも扮するアイデイアマン。楽しい仕掛けを施して年間客数を10万人増やした、輝く人。
ライター:みなみようこ
ハワイをスポーツとエンタメの王国にしたい
海外赴任と広報室を行ったり来たり広報の仕事が大好きでした
入社して37年、病気で休んだことは1度もありません。実は、旅行業に入りたかったわけではないんです。私が大学を卒業したのはオイルショックで就職難のときでした。 なかなか行きたいところに受からず、旅行業界だけは入社試験が遅く、受けてみたら全部受かったので、旅行業が向いているのかなと思って入ったんです。海外に旅行できたらいいなぁなどという、120%不純な 動機で入社しました。 最初は店舗での勤務を経験して、そのときに研修制度で海外に行ったほうがいいと言われ、その試験を受けてみたんです。無表情な役員に笑いを取ったりしたのがよ かったのかはわかりませんが、受かりました(笑)。そしてサンフランシスコヘ行きました。
興味がなかった場所でしたが、行って みたらすばらしいところで大好きになりました。1年間の研修を終えて日本に帰って来たのですが、サンフランシスコに戻りたいと思っていたら、次の赴任地がサンフラン シスコになったんです。妻を連れて行き、そこで子供が生まれ、それから在外生活が始まりました。 在外の勤務は、サンフランシスコが2回、香港、シンガポールヘ行き、ハワイで5回目、合わせると 17年です。在外から日本へ戻ると必ず広報室の配属になっていました。先輩の机を雑巾で拭いていた平社員の頃から広報室にいて、係長、マネージャー、室長まで務めました。広報室の勤務は合計11年で、在外と広報室の勤務をこれほど 繰り返したのは私が初めてだと思います。広報の仕事はとても好きでした。でも、広報がお詫び広報になって、プロテクトする内容になってきたときがありました。不祥事のときにどうするかや不祥事にならないためにはどうするかなど。そういう広報は嫌だったので、マネージャーから室長になったときに、営業広報をやろうと決めて、1週間のうちに何回、日本経済新聞の生活面、産業面に出るかという作戦を立てました。
そこで 「毎日ニュースリリースを書こう」と言ったんです。スタッフたちは「毎日書くのは無理です。新聞記者さんが興味を持ってくれるようなネタはそれほど転がっていないです」と言うので、 「転がっていなければ、探しに行けばいいじゃない」と、毎週水曜は一切取材を受けないで、ネタを探しに行く日にしました。6人のスタッフを3人ずつに分けて関連会社を全部回って、ネタ探偵団をやろうと。少なくとも1人が9日で5ヶ所を回ることを決めました。3人で15ヶ所回れば、楽しい話は1つか2つは必ずあるんですよ。6人のスタッフが1 週間に 1 本書けば、ほぼ毎日ニュ ースリリースが出来上がりますよね。 こうして毎日のように国交省や記者クラ ブに、ニュースリリースを持って行っていました。
「JTBは毎日来るのか」と思われながらも、ちゃんと載るんです。結局年間250本くらい書きました。私は全ての原稿の一言一句を直していましたから、電車の中やお風呂、トイレで常に読んでいましたよ。 それでも記事がないときは、記事を作るんです。どうやって作るかというと、アン ケートをす るんです。月に1回、ウェブを使ってアンケートするのですが、回答は1 回で6000本くらい来るので、それを上手く分析して仕上げていました。例えば、 「海外に持って行って喜ばれるお土産。困ったお土産」というテーマには、海苔ばかり集まって困ったとか、風鈴をもらったけれどぶら下げていたら音が意外にうるさかったなどという答えが返ってくるんです。テーマはみ んなで考えるのですが、私が一番考えましたね(笑)。楽しかったですよ。こうしたアン ケートは記者さんにとって書きやすく、日持ちもいいので、3連休前の記事が枯れるときに持って行ったりしていました。
睡眠時間は3時間半 仕事も趣味も365日欠かせません
「宴は続くよ、どこまでも」と私はよく言 っているのですが、毎日接待や会合が入 っているので、自宅で食事をするのは月に3~4回程度です。毎日夜6~9時頃までが接待や会合で、その後は必ず会社に戻 ってきて夜11時くらいまで仕事をします。それから帰宅してお風呂に入って、妻と話をして、妻が寝た後の午前1時頃からが私の時間です。 毎晩本を3冊くらい読むんです。英語の本とビジネス書とフィクション。フィクショ ンでは、最近は村上春樹の本を読んでいます。それぞれ20分ずつ読んで1時間。その後の1時間は大好きなビデオを見ます。日本のドラマなどが好きなんです。楽しくて仕方がないのですが、午前3時を過ぎてしまうと体によくないので、3時には寝る ようにしています。
そして6時半に起きて会社に行きます。 金、士、日曜は接待や会合の後、会社に戻って仕事をして、その後は映画館に行くんです。映画が好きで、週に2~3本、必ず劇場で観ています。飛行機やビデオでは観ずに、必ず映画館で。このスタイルを40年間続けているので、これまでに映画館で観た映画は6000本くらいですね。ハワイでは、夜10時の上映があるので金曜の夜に仕事の後に行けるのです。先週末はソフィア・コッポラ監督の「ブリングリング」のほか、 「THIS IS THE END」 「BEFORE THE MIDNIGHT」を観ました。いつも一番新しい感覚に触れていたいんです。例えば「グレートギャッツビー」 という映画は、最新のものはレオナルド・ディカ プリオが主演でしたが、私たちの世代は40年前の主演がロバート・ レッドフォードのときにも見ているんです。比較ができるのが楽しいですよね。こうして新しい感性に触れて、気持ち的に若くいたいのかもしれません。それが結果的に仕事にも役に立っていると感じています。
入社したときに、先輩が「どんなことでもいいからひとつのことを20年間続けなさい。そうすると不思議にそれが実力になる」と教えてくれたのですが、本当にその通りだと実感しました。例えば映画に関しては、 「ロミオとジュリエット」 を観ていたために、お客様に 「その舞台になったところですよ ね」と言えたり、仕事でプラスになることがたくさんありますよ。 365日 l 日も休まずに働いています。土 曜は残務整理、日曜は必ず空港とアラモア ナにある’OLl’OLIステーションに行っています。現場が好きなんです。落ち込んでくると現場に行って話をしたくなります。空港に行くとおもしろいですよ。お客様と接することもできますし、怒られたりもしますし、他社の方にも会ったりします。他社のスタッフの方が挨拶してくれると嬉しいものです。
お客様を増やすために
社長になって思ったことは、お客様の数を伸ばすこととスタッフをハッピーすることです。厳しい時期もありましたが、クリスマスパーテイーをハレクラニでやったこともありました。やり過ぎなのではとも言われましたが、スタッフを喜ばせたかったんです。 お客様の数は、私が最初にハワイに来た2008年は年間28万人でしたが、昨年は38万人になり、10万人増えました。努力をすると数は伸びるんです。従来のことしかやらないのではなくて、いろいろなことをしました。例えば、2つあった会社を1つにしたり、アロ ハタワーにあった’OLl’OLIステーションをアラモアナセンターに移したりしました。
アラモアナには、アラモアナセンターのほか、ドン ・ キホーテやウォルマートなどもあって、みんなが行きたいところなんです。スー パ ー マ ー ケッ トで買った荷物 を ‘OLl’OLIステーションに預けてから、アラモ アナセンターで買い物をして、’OLl’OLIステーションに戻ってトロリーでワイキキヘ帰るという流れで、2回3回と利用していただくようになりました。 そもそも、10数年前に我々が「’OLI’OLIシステム」というものを考えたんです。それまでは、団体で空港に到着すると、ワイキキに行くために1台のバスを全員がそろうまで待っていました。知らない人同士の20人くらいの団体ですから、他人のために待たされるのって嫌ですよね。そこで、シャトルバスをどんどん出して、あるlヶ所に集まって説明を聞いて、それぞれのホテルにシャ卜ルで行くというシステムを考えました。それは画期的なシステムだったんですよ。
今では他社さんも同じシステムにされているので、ここで差別化を図ろうと、昨年の4月 9 日からクジラ型のトロリーの’OLl’OLIウォーカー(ニックネームは’OLl’OLIクジラ)を走らせました。2012年がJTBの100年祭だったので、何か記録に残るようなことをしたいということもあって、バスを作ったんです。クジラの形のカーブに合わせて、部品のひとつひとつを職人さんが曲げて作 った手作りのバスです。 ア ドバタイザーでモースト ・ アイキャッチング・ ビークル (the most eye-catching vehicle) にも選ばれました。可愛くて目立つので、お子さんに人気があるんです。 「あれに乗りたい!」と。オアフ島はブルー、赤、グリーンの3色で15台、マウイ島には、新たにピンク色の2台を走らせました。アメリカから来た方も「ピンクのクジラのバスに乗せて欲しい。どこで切符を買うんだ?」と聞いてきたこともあります(笑)。
地元のリクエストもあって、今年のホノルルフェスティバルでは、地元の小学生たちを乗せました。とても喜んでくれましたよ。 1台が数千万円。全部で10億円近い投資でしたが、お客様に喜んでいただくことができたと思っています。 お客様を増やすために、修学旅行の数も伸ばしました。日経流通新聞の定点観測で は若い人の「3大しない」が、旅行をしない、車を買わない、お酒を飲まない、なんです。 我々としては、旅の感動を与えたいと思 っていて、若い頃にそういう感覚をもってもらうのがいいと考えたんです。そのきっかけになるのは修学旅行だと思い、 「ハワイ教育旅行ガイド」 をハワイ州観光局と一緒に作りました。独自の文化や歴史、自然、語学など、ハワイは学びの宝庫だということを冊子にして、提案したところ、功を奏して修学旅行が伸びつつあります。今は年間30校くらい扱っています。 彼らがハワイを好きになってくれたらいいですよね。彼らが家に帰ってからお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに「楽しかった」 と話してくれるので非常にいい効果もあるんです。
もうひとつは海外挙式の数も伸ばしました。6月はジューンブライドですが、昨年は10月のほうが6月より多かったくらいです。 lO月は500組くらいいらっしゃって、1日に28組が挙式した日もあったので、スタッフは大変でした。昔の海外挙式は南の島で2人だけというスタイルでしたが、今はこ親族もいらっしゃることが多いので、1カップ ルの挙式に8名のこ親族を合わせるとlO名。1ヶ月に500組ですとウェデイングだけで5000名のお客様がいらっしゃることになります。