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デジタル版・新聞

インタビュー

【インタビュー輝く人】画家 グラバー由美子さん

日本独特の社会現象を表現したい

今も昔も変わらず、人物にとても興味を持っています。これは子どもの頃に描いていた少女漫画の時代から続いていると感じています。 大学のドロ ーイングや油絵のクラスでは、1~2週間ごとに、今回は環境、次は社 会、政治、歴史について描きなさいというよ うにプロジェクトを与えられました。それぞれ自分なりに取り組みましたが、客観的な仕上がりになりがちで、悶々と何をテーマに描いたらいいのだろうと考えていました。

 

あるとき、自由に描いていいというプロジ ェクトがありました。題材を決め、リサーチをしてペーパ一を書いた段階で、それが通ればなんでも描いていいというんです。その ときに気になっていたのが日本の社会現象でした。2006年に夫の仕事の関係で少し 日本に住んでいて、ちょうどメイドブームがあり、秋葉原や原宿などでたくさんその様子を見かけました。

 

ある日、明治神宮の前にある橋の上で、中学生か高校生くらいの 女の子たちが体育座りをして、その周りをアマチュアカメラマンの中高年の男性たちが群がり、寝転んだ状態で彼女たちの写真を撮っていたんです。彼らは「もっと足を開いて」などと言って下着部分を撮る、それに対して女の子たちは平然と言われた通りにしていました。逆カルチャーショックでしたね。よく聞くと、撮られている側も撮っている側も一般の人だったんです。

 

それから背景となる‘‘オタク文化”について調べてみました。リサーチをしていく中で、1980年代半ばに男女雇用機会均等法が施行され、女性の社会的ポジションが変わってきた頃、オタク文化というサブカルチャーが発達してきたことが見えてきました。社会の中で女性が強くなっていったこ とと反比例して、男性がメイドや女子高校生のイメージを強く求めるようになり、それがメデイアに反映されて一大産業になりました。

 

メイドや女子高校生が出てくるアニメーションやアダルトゲーム、ポルノグラフィティなどが注目されましたよね。漫画を読んで見ても、メイドさんや制服を磐ている子はとにかく従順なんです。 そのイメージに30代、40代などの男性が惹かれているということは、表向きは男 女平等を目指しているように見えても、根底ではまだまだ女性に対して従順で幼いイ メージを求めているのではないかと感じた のです。

 

世界経済フォーラム (WEF) が発表した、2012年度の男女平等(ジェンダー・ ギャップ)指数で、日本は135カ国中101位だったことにも納得できます。さらに興味深いのは、実際、街で女の子たちがメイド姿や制服姿で歩いていても、その子個人のことを知ろうとはしない。直接話したり、付き合いたいなどとは思っていない。ただ目で楽しんで、その子を通して自分の好きなバーチャルの世界を結びつけて、擬似的体験を楽しむ。

 

女の子たちも、見られていることで自信を得たり、楽しんだ りしているところがあるんです。JK(女子高校生)リフレを含めた擬似恋愛がこんなにも現象化している、独特な文化ですよね。当然その背景には歴史や経済、社会的な要素があると感じたので、それを自分の視点で表現したいと思ったんです。そして2010年後半から“浮世の萌え要素”シリーズを書 き始めました。

 

シリーズ「浮世の萌え要素」より

 

“萌え”という言葉は、元々日 本の漫画・アニメ・ゲームソフト愛好者の間で使われ始めた造語で、ー方的な愛着心や可愛いと思う気持ち、欲望などを表していましたが、その後進化し続け現在では使い方も多様化しています。 私の作品はそういう男性や女性のどちら かを批判しているのとは違っています。

 

海外に住む私のフィルターを通して、社会現象に潜む背景やその独特な世界を描きたかった。批判的になりがちな題材ですが、絵の中に小さい動物を置くことによってコミカルにしたり、人物は写実的なのに背景にフラットな部分や宇宙的空間を取り入れることで、 現実と非現実の二つの世界を同時に表現 することを試みました。

 

絵の中にある、女の 子のスカートの中を覗いている小さいウサ ギやカエルは男性を意味しています。これは 12世紀から13世紀に描かれ、当時の世相を風刺したといわれる“鳥獣人物戯画”から ヒントをもらいました。単に社会批判をしているのではないという風にしたいのですが、「こういう絵を海外で発表するのはやめてほしい」と言われることもありますよ(笑)。

 

見る側が絵からコンセプトを感じなくても、「なぜみんな短いスカートを履いているんだるう」「なぜ短いスカートのあたりに視線がいってしまうんだろう」と思ってもらえるだけでもいいんです。 私の絵の女の子たちの目線は絵を見ている側ではなく、携帯電話を見ていて、小さい動物たちは女の子を見ています。みんな目線が合っていないんです。

 

また、見る人の 目線が自然にスカートあたりにいくよう構図や色を構成しているので、人によっては覗き見をしているような気分になるかも知れません。それによって、作品に美術理論でいう「3つの視線(見る者・見られる者・のぞき見する者)」を存在させようと試みたのですが、 「なぜ?」と思ってもらうだけで、日本 社会を知るきっかけになると思っています。

 

 

“浮世の萌え要索”の構図は浮世絵の美人画

私の”浮世の萌え要素”の構図は浮世絵 の美人画を参考にしています。浮世絵の美人画に登場するのは、ほとんどが江戸時代の ”吉原(よしわら)”の遊女です。借金を背負い自由とは無縁だった遊女と、同世代だが自由な現代社会に生きる女性を比較して みました。

 

女性が裸で描かれている西洋画には女性の視線がこちらを向いているもの が多いので、絵を見ると視線が合います。視線が合うことで、女性は挑発、または挑戦しているようにも見えます。反して、浮世絵の 美人画の視線は見る側と絶対に目が合わないんです。視線が合わないことで隙を与え、遊女の日常の生活のーコマを、見る側が罪悪感を持つことなく想像を膨らませて見ることができるのではないかと思います。

 

春画もそうですが、日本はこうしたスタイルで男性の目を楽しませていたんですね。 今回ホノルル美術館に出展 している私の絵の一枚は、喜 多川歌麿が描いた”姿見七人化班おきた”という美人画の パロディーです。おきたは、当時寛政の三美人として、浅草 の水茶屋・難波屋で働いていました。おきたにはファンがいて彼女が描かれた絵は人気があったんです。

 

それまでの美人画は全身が描かれ、場所や登場人物の名前が書き添えられたものが主流でしたが、 1789年の寛政の改革によって浮世絵に人物の名前を書く ことが禁じられました。歌麿は「姿見七人化粧おきた」で顔をアップで大 きく描くことで人物の特徴を生かせるよう 工夫をしました。さらに着物に桐の紋所をつけることによってこの女性がおきたであることを特定できるようにしています。 私の絵はその逆にしました。

 

制服の胸の ところに本来なら学校が特定できるエンブレムがあるのですが、男性はその女の子個人には興味がないため、あえてそれを削除することで現代のおきたちゃんにしました。 また、昔は襟足が一番セクシーとされる 部分で、男性は浮世絵に描かれたおきたの 襟足を見てさぞかしぞくぞくしたことと煙像しますが、現代の男性は襟足だけでは興奮しないので、短いスカートをはいて手を置いているのが現代のおきたちゃんです。こ ういうバックグラウンドも楽しんでいます。

 

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