お金じゃなくて、楽しい気持ちが一番大切
日本語が少しずつ話せるようになって、 日本人の観光ガイドになろうと、ロバーツハ ワイで働き始めました。ロシア人が日本 人ガイドなんて無理だと言われましたが、「できない」はないんです。その後6年半、アロハバスで働いて、たくさんの日本人のお 客さんと出会いました。
ハ ワイについて日本人にガイドをするにあたっては、いろいろな勉強をしました。ま ずは日本の歴史。そしてハワイの歴史はも ちろん、花、木など自然のこと、ハワイの言 葉、 「ワイキキ」や 「カネオヘ」などハワイの地名の意味や由来など、ガイドはハワイに 関する全てを勉強するべきです。
私は、ハワイの平等院や金閣寺、金刀比羅神社など、ただ連れて行くだけでなく、誰がいつなぜ建立したのか、そういうところ から説明しています。パールハーパーでも、細かいところまでしっかりと歴史をお話します。
私が伝えるのはアメリカのストーリー ではありません。お客さんも、同業のガイド の人も、その歴史を初めて知る人がたくさ んいます。あるとき、東京の大学の教授が 来て、真珠湾攻撃について説明をしたんです。その後、彼らに 「東京の大学で先生になりませんか?」と言われて驚いたこともあります。
そうしているうちにリピーターが増えて、 たくさん指名を受けるようになり、お客さん から 「自分の会社を作った方がいいよ。アレ ックスのツアーに行きたいから。」という声をたくさんいただくようになったんです。
そ こで約束をしました。「あなたたちを乗せるベンツ買います。そしてあなたたちを楽しま せます。」と。 「ALEX ALOHA TOUR」を立ち上げるときは、周りからは 「ベンツのバスなんて買 えないから、会社を辞めない方がいい。」と心配されました。
でも、私に 「できない」の言葉はありませ ん。時間はかかりましたが、コツコツとチッ プを貯めて、赤いベンツのバスを買って、ツ アーの会社を作りました。 私のバスの中はみんな家族、みんな一緒。大手企業の社長も芸能人も誰かだけVIPということはないんです。
あるとき、ツア ーに参加した大手自動車メーカーの社長 さんに 「これまでいろいろな国に行ったけ れど、私はあなたのバスで初めて普通の人として扱ってもらった。」と言われました。嬉しかったですね。
それから、私のバスにお孫 さんが乗って、日本に帰ってからも「アレッ クスが、アレックスが」といつも話してくれていたようで、そのおじいさんが、 「あなたに 会いたかった。」と来てくれたこともありました。
お客さまとは1日中一緒に過ごすわけですから、はじめから終わりまで最高のサー ビスをしたいんです。最初に地図を渡して、 これからどこへ行くのか、何をするのか、その場所のポイントは何なのかを丁寧に説明してから出発します。
車を停めて 「何分後 に集合です。行ってらっしゃい。」ではなく て、私は一緒に行って一緒に見て回って、ゆ っくり写真を撮ります。私のバスに乗った 女性はみんなプリンセス。年齢に関係なく 女性はみんな天使。フアーストネームで呼んでいますよ。
ツアーが終わっても、みんな なかなか帰らないんです。ガイド仲間から は 「何喋っているの?」と聞かれるのですが、翌日のハワイの過ごし方やおいしいレストランなど、ツアー以外のこともトータルでお手伝いしたいので、そういう話をしています。
そうするとあっという間に時間が経 っています。 オアフ島一周ツアーは2食とフルーツ、マ ラサダ付きで100ドルなのですが、お客さ んは 「もっと高くした方がいいよ。」と言って くれるんです。
でも一番大切なのはお金じ ゃなくて、楽しいという気持ち。お客さんが喜んでくれることが私にとっての幸せ。なので、いつもツアーの間の8時間半をずっと説明し続けて、お客さんに楽しんでもらっています。
その結果、私のお客さんはほとんどがリピーターかその紹介で来てくれる人ばかりになりました。そのほかにも、ハワイに住んでいる人や同じガイドや添乗員をしている人にも「勉強になる」と参加してくれます。
日本からの幼稚園の卒業旅行での出会い
千葉県に「子ども園かしの木」という子ども園があるんです。ボランティアや歌やダンスをしたり、ユニ一クなカリキュラムを取り入れて、子どもの可能性や才能を引き出すことを目的にしているのですが、彼らが、父兄が同伴しない卒業旅行として、ボランティアを兼ねてハワイに来たことがあった んです。
その時に私のバスに乗ったことがきっかけで、その次の年は、子ども達のリクエストもあって、3日間のプランを立てて一 緒に過ごしました。ハワイの幼稚園Star of the Sea Early Leaning Centerでみんな一緒にダンスをしたり歌を歌ったりしました。
ドールプランテーションの隣にあるハレマノプランテーションという知的障害者の共同生活の施設でボランティアをしたり、ポリネシアカルチャーセンターでは、100人を超える人たちの前で歌や踊りのパフォーマンスをしました。
彼らは日頃からボランティアをしていて慣れていましたし、お父さんお母さんがいない海外旅行でも誰も泣くことはありま せんでした。せっかくハワイに来たのだから と、こっそりアイスクリームを渡したり、ジュ 一スを飲んだり。みんなとても楽しんでくれました。
通訳も兼ねて手伝いをしてもらおうと娘も連れて行ったのですが、年齢も近く、すぐ に仲良くなりました。帰るときはみんなで抱き合って泣いていました。娘は彼らに会い に日本へ行きたいと話しています。日本か らの小さなお客さんたち、もう私たちは家族です。
家族もお客さんも、どんな人も楽しませたい
2000年に結婚し、現在は8歳の娘と2歳の息子がいます。家族と過ごす時間はワ イキキを散歩したり、買い物に行ったり、ダイヤモンドヘッドに登ったりしています。
娘のクラスメイトから「ベンツのバスに乗りたい。」 「オアフ島一周したい。」とリクエストがあると、観光の仕事が入っていない時間に、お父さんやお母さんたちも連れて 島一周に出掛けたりしています。そんなとき はドールプランテーションで電車に乗るなど、子どもたちが喜ぶコースにします。
帰ってすぐに 「また行っていい?」と頼まれるん です。仕事としてのガイドも、子どものクラスメイトやお父さんお母さんたちとの島一周も、どちらも喜んでもらえるので嬉しいです。いずれは、仕事としてというより「楽し み」だけのツアーができるようになればいいと思っています。