昨年、華道の小原流ハワイ支部は創立60年を迎え、日本から家元の小原宏貴(おはらひろき)氏を招いて祝賀行事を開いた。 小原流は19世紀末、小原雲心(うんしん)が盛花(もりばな)という新しいいけ方を創始したことに始まる。生活様式の変化に柔軟に寄り添うのも小原流の特徴で、和の空間だけでなく洋のライフスタイルにもフィットしたいけばなを生み出してきた。 いけばなを教えるカリキュラムも体系化され、日本国内146支部、国外でも67支部において普及活動をしている。 小原宏貴氏(30歳)は、先代の早逝により弱冠6歳にして五世家元を継承。日本の伝統文化である華道の普及活動とともに、現代アートの作家としても、国内外をとびまわっている。 端整なルックスはいかにもアーティスト。ハワイでのデモンストレーションではジョーク交じりの英語でいけばなを語り、会場を沸かせていた。
――アメリカ西海岸での小原流ロサンゼルス支部50周年記念行事を経てのハワイ入りだそうですね。
花展や講習会、研究会などで各地に伺うことの多いのが、なんといっても私の仕事の特徴の一つです。実は20代のうちに日本国内の都道府県はすべて制覇しました。外国にも年に数回は行きます。もはや移動するということ自体が、仕事の一部と化しているようにも思います(笑)。
――欧米のフラワーアレンジメントと、日本のいけばなとの違いはどんなところですか。
欧米では花を足しながら盛り込んでいきます。本数も種類も多くいけます。一方日本のいけばなは、足し算というより引き算のいけ方です。どこかを引くことでどこかを強調する。ないことはあること以上の存在感を示すのです。 また、花や緑だけでなく、空間をもいけるといえます。浮世絵のような遠近表現も使いますし、壮大な枯山水の景色を表わしたりもします。能や歌舞伎といった日本の伝統文化に共通したところがあるのではないでしょうか。
――小原流ならではの特徴的ないけ方もあるんですよね。
いろいろありますよ。例えば平らで浅い水盤という花器に花をいける「盛花」の場合、水の見え方を季節で変えます。冬は寒々しくならないよう、あまり水が見えないようにいけます。春は雪解けの水を彷彿とさせるよう、少しだけ水を見せます。そして夏は水面を広くとり、水もたっぷりと張ります。
――水までも作品の一部! そして四季がある日本ならではの自然観、美意識ですね。
いけばなの起源は自然信仰のアニミズムにあるんでしょうね。四季は美しいばかりではなく、さまざまな自然災害も引き起こします。そんな中で、自然の花を束ねて捧げ、鎮魂し、五穀豊穣を祈る。そんな日本人の自然と一体になった心が、いけばなを発展させたように思います。
――ハワイでのデモンストレーションではこの土地ならではの花や緑、フルーツ、樹木の根っこやサンゴまで使っていけられました。
小原流の会員さんの庭の花や、山に入って、トロピカルプランツを集めました。デモンストレーションでは、その土地に自生している身近な植物を使うようにしています。ハワイにはレイを贈りあう花の文化もあって、すばらしいですね。
――バナナの実った枝も、大胆にいけました。もっと繊細に、慎重にいけるのかと思ったら、とても大胆というか、アスリートのような瞬発力のあるいけ方でした。
ハハハ、僕が考えるいけばなの本質は、植物に触って戯れ、植物と対話しながらいけると楽しいということです。 若い世代にも植物って楽しい、いけるのって面白いということをもっと伝えたいと思っています。
――完成したいけばなを鑑賞するのではなく、いける最中のライブを見るのがこんなにワクワクするなんて、まさしく一期一会のインスタレーションでした。
そう、いけばなにはまだまだ伝えたい魅力がたくさんあります。いけばなは自然界のエッセンスといえますから、ぜひご自身の生活のシチュエーションに、いけばなを取り入れてほしいと思います。
(取材・文 奥山夏実)