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インタビュー

「マラマ・ホヌア」地球をいたわろう、子どもたちにホクレアのメッセージを伝えたい

「マラマ・ホヌア」、地球をいたわろうというメッセージを掲げて昨年5月にハワイから3年間の世界航海に出たハワイのカヌー、「ホクレア」。羅針盤などの近代機器を一切使わず、星や風、波の動きなどを読み取りながら航海を続けている。(2015年12月19日インタビュー当時)

この世界航海では初めて太平洋を出て、インド洋を渡り、既に南アフリカまで到着した。ホクレアには、ハワイだけでなく、世界中から様々な人々がクルーとして乗り込んでいるが、日本人クルーも何人かいる。その中で、ハワイからニュージーランドまでの航路を、ホクレア伴走船であるカヌー、ヒキアナレアにクルーとして乗り込み、来年のホクレア航海への乗船をめざしている日本人女性、内田沙希さんに、ホクレアへの思い、これからの夢について語ってもらった。

 

ホクレア・クルー  内田 沙希(うちだ さき)さん
1989年生まれ。海洋ジャーナリストの父(内田正洋氏)とホクレア号との縁で、日本航海の最終区間に乗船。高校卒業後、ホクレア号訓練生としてハワイ留学。2012年にニュージーランドで建造されたヒキアナリア号のハワイ回航クルーとなる。2014年5月17日からのホクレア世界航海にクルーとしてホノルルからニュージーランドまで、伴走カヌーのヒキアナリア号に乗船した。今は、カヌーで学んだことを学校などで子どもたちに伝えながら、ホクレアに乗船する次の機会に備えている。

 

海とともに育った高校生のホクレアとの出会い

生まれは静岡です。その後、横須賀に引っ越して、そこで育ちました。家が海のすぐそばだったこともあり、生まれた頃から海は生活の一部でした。だから、小さい頃から大きくなったら海に関わることをやりたいと思っていました。でも、具体的にマリンスポーツなのか、海洋生物なのか、何をやりたいかがわからなかったんです。海の生き物が好きだからその分野の大学への進学を考えていました。

 

ところが高三の時、ホクレアが日本航海にやって来ました。実は父が海洋ジャーナリストで、私がまだ小学生の頃、ナイノア・トンプソンさんが日本航海を計画していた時に日本に来られて、一度お会いしています。それから日本航海まで10年ぐらいかかったんですが、そのご縁で、父はホクレアが日本に来た時にエスコートボートに乗ったりしてサポートしていたのです。

 

その頃の私はホクレアというカヌーがあることを知っていただけで、そんなに興味もなかったんですが、父に誘われて、せっかくハワイから来ているんだから行ってみようと思って、1週間ぐらいクルーと一緒に過ごしました。そして、三崎から鎌倉までホクレアに乗せてもらったんです。ホクレアと実際に出会って、羅針盤などの近代機器を使わない伝統航海術があると聞いて、「そんな魔法みたいのことができるのか、どうしてもカヌーについて学びたい」と思ったんです。そこで、ナイノアさんに「どうしたら勉強できますか?」と聞いたら、「ハワイに来るしかないよ」といわれて、その一言でハワイに来ることにしました。

 

見よう見まねで学んだ伝統航海術

高校卒業後、5月にハワイに来て、最初はKCCで英語を勉強しました。それが一段落して、8月に初めてオフィスに電話したら、「とりあえず来てみろ」と言われて、行ってみたんです。でも当時、ホクレアでは伝統航海術のクラスなどはなくて、そこで開かれているミーティングに参加することから始まりました。最初は何かあったら参加して、数時間のデイ・セールに乗せてもらったりしていました。日本の部活みたいにプログラムがちゃんとしているのとは違い、ずいぶん自由な感じでした。

 

初めの頃は英語もよくわからず、みんなが何を言っているかも理解できなかったんです。そして、翌年の1月に、「この日に乗れるか?」と言われて、軽い気持ちで行ってみたら、それがカウアイ島に行く航海で、それが初めてのセーリング体験でした。最初は紐の結び方も何もわからなくて、まさに見よう見まねです。すべて手探りで、自分のできることを探していました。緊張して、いつ寝ていいのかもわからなくて、基本的に4時間ずつのシフトで、その間は休んでいいというのは後でわかったんですが、30分おきに下から外を覗いて「大丈夫かな?」とチェックしていました。

 

その時、すごく星がきれいで、「本当にきれいだな」と心から思いました。最初にカヌーについて学びたいと思った時は、自分の中でやりたいという気持ちはあっても、言葉だけが先走っていたのかもしれません。でも実際にやってみて、「やっぱりこれがやりたいことだ」と確信しました。ホクレアの歴史についても、ハワイの文化についても、背景にあることは全く知らなくて、来てから初めて知ったんです。 だから、世界航海を目指してきたわけでもなくて、ただ伝統航海術について学びたい、セーリングを学びたいという一心だったんです。

 

ナビゲーターは何も使わずに、どこにいるかがわかっている

カヌーには、一度に14人ぐらいが乗船します。3〜4人のグループが、4時間ずつのシフトを交代でやります。それぞれのシフトにウォッチキャプテンがいます。色々な役割がありますが、一番大きいのは舵を動かすこと。パドルを持って、キャプテンやナビゲーターの指示によって動かします。帆も動かします。食事を作る時間になったら、その手伝い。あと、クォーターマスターは、船に積んであるものすべてをチェックして、どこにあるかを把握していないといけない。フィッシャーマンの手伝いで魚釣りさせてもらうこともあります。セーフティオフィサーは、安全のために何があり、どう使えるか、安全にカヌーで過ごすための役割です。

航海の前は、ナビゲーターが風を見て出帆を決めるんです。ナビゲーターはほとんど眠りません。方位磁石も何も使わないけれど、太陽や月や星、波のうねりを観察して自分がどこにいるかがわかっている。憧れの存在です。

 

私の経験した一番長い航海は、去年です。今回の世界航海では、レグといって区間ごとに人が変わるんです。私は伴走船の「ヒキアナリア」というカヌーでハワイからニュージーランドに着くまで、5月から12月まで乗りました。航海そのものはそれほど長くないのですが、寄港地で子供達へのイベントを行ったりするので、長くなるんです。 自然には勝てないことがわかっているから、あまりこわいと思ったことはありません。嵐にもあったけれど、それほど大きくはなかった。安全を一番にしているので、予兆があったらそれを避けるのがホクレアのやり方なんです。

 

カヌーでは、生きていくのに大切なことをすべて学べる

ホクレアを通して、自分は変わったと思います。初めの頃は何をやりたいのかはまだ考えていなくて、でも、「なんでこんなにカヌーが好きなんだろう?」と考え始めると、カヌーでは、人が生きていくのに大切なことをすべて凝縮して学べるからだと思ったんです。伝統航海術のスキルはもちろんですが、人間関係でも学ぶことが多かった。

 

ホクレアには、ハワイ人だけではなくて、白人、トンガ人、サモア人等、色んな人種の人がいます。年齢層も、20代から70代まで、とても幅広いんです。小さなカヌーでプライバシーもなくて何日も一緒にいると、好きになれない、「この人苦手だな」思う人もいたりするんです。それが陸だったら、あまり関わらないこともできるけど、それもできないし、一人一人の関係が崩れると航海が危険になるということに気づいた時に、苦手と思っていた人も受け入れられるようになりました。その人に何かあったら心配になるし、そういう人との関わり合いも大切なんだという知恵も学びました。みんな「家族」って呼んでるんですけど、カヌーに乗ったら人種も関係ない。カヌーでできた友達は人生でずっと一緒に関わっている人なんです。

 

「マラマ・ホヌア」自然があるから自分がある。だから自然を、地球をいたわろう

海の真ん中でカヌーの上にいると、人間は自然に対してすごく小さな存在で、まわりには何もない。何もないから自然と一緒にいるしかない。ナビゲーションというのは、それを知らないとできない技術なんです。日本では、なかなか自然の近くで生きることが難しいと感じていました。今、自然災害が増えている中で、もうちょっと人間が自然を理解していたら、この世の中は違っていたんじゃないかなと思うんです。カヌーでは、「自然があるから自分たちがある」というのが当たり前の生活だったから。

 

ホクレアの世界航海のテーマである「マラマ・ホヌア」は、自然を、地球をいたわっていこうというメッセージです。今私が一番考えていることでもあります。自分の中で大きい位置を占めているから、それを沢山の人に知ってももらいたいと思っていた頃に、世界航海が始まりました。

 

子供達に平和へのメッセージを伝えたい

ホクレアは、世界みんなの平和につての大きなメッセージを持っている。航海がスタートする前に、ダライ・ラマとツツ大司教もカヌーに来られて、祝福してくれました。二人とも違う宗教の人で、どちらもノーベル平和賞をもらっているような、そんなすごい人たちが来てくれた。もしかしたら彼らもそれに気づいてきてくれたのかもしれないと思った時、自分がこれからできることは、それなのかなと思いました。それを子どもたちに知ってもらいたい。

 

いつもキャプテンたちが言うのが、次の時代、子どもたちが大切なんだと。ホクレアではみんなが「カプ・ナ・ケイキ」、子どもたちは神聖、という言葉を口にします。最初はよくわからなかったんですが、子どもたちがいなきゃ、先には何もない。物はいずれなくなるけど、子供たちは未来につながっていく。だから、良いものを子供たちに残してあげたい。そう思った時、自分がカヌーで学んだ自然のこととか、人との関わり合いのこと、平和についてのメッセージ、環境のことも、それを次の世代の人たちに伝えていきたいと思ったんです。

 

カヌーに乗っていると、生きていくために必要なものを与えてくれる海にひどいことはしてはいけないと、私たちはそれを当たり前に思っているけど、それって実は当たり前じゃない。海がなくなったら、人間もすべてなくなっちゃう。自然に触れていないと、それを知らない人がいっぱいいる。だから、そういうことを今の日本の子どもに、次の時代のリーダーになる人たちに知ってもらいたいです。でも、自分の思いを押し付けるのではなくて、こういう考えもあるんだと。

 

今の日本は窮屈だし、あまり希望がないように感じます。先日大学生にホクレアの話をしたんですけど、「何でそんなことをやるのか理解できない。お金にもならないし」と言う学生がいたんです。もしかしたら、それが今の日本の考え方じゃないかと思いました。「違うんだよ。こんなに面白いんだよ」と、若い時にカヌーに乗ってみたら、その経験がみんなの人生を変えちゃうぐらいの経験になるんだと、そういうことを教えてあげたいんです。

 

(日刊サン2015年12月19日掲載)

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