ホノルルでは、スーパーや量販店などで世界各国のさまざまなお酒が手に入ります。カラフルな瓶が並ぶお酒コーナーは見ているだけで楽しいものですが、興味があっても飲んだことのないお酒に挑戦するのは、ちょっとした勇気がいるのではないでしょうか。今回のエキストラ特集では、「世界お酒小紀行」と銘打ち、各国のお酒についてご紹介します。飲んでみたいお酒が見つかるかもしれません。
イギリス
スロー・ジン…「遅いジン」ではない
スロー・ベリー(Sloe Berry)と呼ばれるスピノサスモモ(blackthorn)の果実を細かくし、穀物を原料とした蒸留酒に漬け込んで造られるお酒です。アルコール度数は25%ほどで、スロー・ベリーの甘酸っぱさ、柑橘系の爽やかな香り、独特の酸味、深みのある味わいが特徴です。イギリスの家庭で作られるスロー・ベリーを漬けたお酒が発達したものと言われています。
スコルピオ…サソリ入りのウォッカ
トウモロコシ、小麦などの穀類と麦芽の原料を発酵させ、連続式蒸溜機で3回蒸溜したピュア・ウォッカに食用のサソリを漬け込んだお酒。アルコール度数は37.5%で、ボトルの中のサソリは足を取り除いて食べることができます。
フランス
ブランデー…アルマニャック、コニャックが有名
白ブドウのワインを蒸留して樽に入れ、熟成したお酒。アルコール度数は約40%。熟成期間は5〜30年ほどで、種類によって異なります。熟成させすぎたものは、新しいものとブレンドして若返らせる場合もあるのだそう。語源はノルウェー語で「焼いたワイン」を意味する“brandeviin”で、現代のフランス語では「命の水」を意味する「オー・ド・ヴィー(eau-de-vie)」と呼ばれています。15世紀にフランス南部のアルマニャック地方やコニャック地方で生産が始まり、フランス産のブランデーは世界的に有名になりました。 カクテルによく使われるグラン・マルニエは、コニャックにビターオレンジを加えたものです。
ドライ・ベルモット…白ワインにニガヨモギなどを加えたフレーバードワイン
日本の酒税法では「甘味果実酒」として扱われています。アルコール度数18%で、食前酒、料理、カクテルなど様々な用途で使われます。ドライ・ベルモットを使った最も有名なカクテルは、皆さまご存知の「マティーニ」。
イタリア
スィート・ベルモット…カクテル「マンハッタン」のレシピで有名
イタリア北西部、フランスとの国境に近いピエモンテ地方が名産地の甘口ベルモット。イタリアン・ベルモットとも呼ばれます。ドライ・ベルモットより香草の風味が強く、多くはカラメルで着色されています。「チンザノ」や「マルティーニ」が有名。
カンパリ …詳しいレシピは非公開
ビター・オレンジ、キャラウェイ、コリアンダー、リンドウの根など、約60種類の材料が使われています。アルコール度数25%のビター系リキュールで、爽やかな苦味が特徴。柑橘系のジュース、白ワイン、ビールなどで割って飲まれるのが一般的です。
特徴的な深い赤色には「コチニール」というエンジムシから取れる染料が使われていましたが、2007年以降は赤色2号、青色1号、黄色5号といったタール系の着色料に替わりました。
スペイン
オルホ…ブドウの粕が原料
ブドウを潰した後に残るしぼり粕を蒸留して作られるお酒です。アルコール度数は35〜45%ですが、独特の香りと味覚があって飲みやすいため、スペインでは多くの人々に愛飲されています。一般的なオルホは透明ですが、黄色い色をしたものもあります。
黄色いものは「年を経たオルホ」を意味する“orujo envejecido”と呼ばれ、約2年、樫(かし)の樽で寝かされてから出荷します。ガリシアやアストゥリアスなど、北スペイン地方が名産地とされています。
スイス
アブサン…スイス発祥の薬草系リキュール
アルコール度数は約70%。アニス、ニガヨモギ、ウイキョウを中心に、さまざまなハーブやスパイスが使われています。写真は、角砂糖を乗せたアブサン・スプーンをポンタルリエ・グラスの上に渡し、ファウンテン型のウォータードリップを用いて水を滴下しているところです。
アイスランド
ブレンニヴィン…「燃えるワイン」
ジャガイモのでんぷん粕を発酵させた蒸留酒で、キャラウェイ・シードで香りづけされています。アルコール度数は37.5%で、名前を直訳すると「燃えるワイン」。“Black Death”と呼ばれることもあります。冷凍庫で冷やして乳化したものをショットに入れ、一息で飲むのが一般的です。コーラなどと割って飲むことも。
ホワイト・エール…パクチー好きにおすすめ
小麦が主原料で、色は薄い黄色がかった乳濁色。コリアンダー(パクチー)とオレンジの香りが爽やかなビールです。
クロウベリー・リキュール…程よい苦みと爽やかな香りが特徴
アイスランド全土に自生するクロウベリーのリキュール。程よい苦みと爽やかな香りが特徴です。クロウベリーには美肌効果が期待されるポリフェノールの一種、アントシアニンが豊富に含まれています。
ビヨルク…白樺の薫りが爽やかなリキュール
アイスランド語で白樺を意味する「ビヨルク」は、春に採取された白樺の木で風味付けられたリキュール。爽やかな木の香りとなめらかな口当たりが特徴で。トニック・ウォーターで割ったものにライムを入れたり、オレンジジュースで割ったものが人気です。
コラム ビール以外のお酒はOK?! アイスランドの「禁ビール法」
アイスランドでは、1915年にすべてのアルコール飲料の販売や消費を禁止する「禁酒法」が施行されました。1933年から「禁ビール法」に変わり、1989年まで続いていたのですが、その間はビール以外のお酒は何を飲んでもOKでした。この奇妙な法律のバックグラウンドには、アイスランドの歴史がありました。
アイスランドは、1389年から1874年までデンマークの統治下にありました。独立後、国民の精神的、物理的な独立心も培うために、デンマークを象徴するビールのみを禁じたといわれています。それでもビールを味わいたかったアイスランドの人々は、代わりにブレンニヴィンなどの蒸留酒にノンアルコールビールを入れた、日本のホッピーのようなカクテルを飲んでいました。
ビールが合法化されたのは1989年の3月1日。アイスランドでは「ビールの日」として、毎年この日にビール・パーティーを開催するのが習わしです。
現在のアイスランドでは、アルコール度数が2.25%を超えるものは国営のリカーショップ「ヴィンブージン」のみで購入が可能です。
スウェーデン
アクアビット…ジャガイモが原料のスピリッツ
アクアビットの語源は、ラテン語で命の水を意味する「アクア・ウィータエ(aqua vitae)」。スウェーデンのほか、デンマークやノルウェーなど北欧の国々で愛飲されるスピリッツです。原料のジャガイモを酵素や麦芽で糖化、蒸留し、キャラウェイ、アニス、フェンネルなどの香草で風味を加えた後、さらに蒸留して造られます。一般的なアクアビットは樽熟成をしないため、無色透明の「ホワイトスピリッツ」として販売されます。ノルウェーの「リニエ」など、たまに色のついたものがありますが、これは2回目の蒸留の後で樽熟成したものです。
現存する最古のアクアビットの記録は15世紀の『ストックホルム市財政報告書』に見ることができます。この文献には「ヨーロッパ大陸から輸入したワインを蒸留して製造していた」と記されており、当時「アクアビット」と呼ばれていたのはブランデーだったと推測されています。16世紀末には原料に穀物が使われるようになり、18世紀にはアメリカ大陸産のジャガイモを原料とし、現代のようなアクアビットが作られるようになりました。
スェーデンのアクアビットO.P. アンダーソン
ギリシャ
ウーゾ…世界遺産の「アトス山」発祥
ブドウやレーズンが原料の蒸留酒に香草が加えられた無色透明のリキュール。使われる香草はアニスを始め、アンゼリカ、シナモン、コリアンダー、クローブ、ミント、スペインカンゾウ、冬緑油(ウィンターグリーンの精油)、ウイキョウ、ハシバミ、ライムの花などさまざまで、造り手によって異なります。
ウーゾの原型は「ツィプロ」などの蒸留酒で、4世紀頃、ローマ時代から造られていました。14世紀、ギリシャ北東部にあるアトス山で、修道士がアニスの香りをつけたツィプロを造り、これがのちにウーゾと呼ばれるようになったとされています。
19世紀にギリシャが独立してからは、現在も名産地であるレスボス島を中心にウーゾの蒸留が行われるようになりました。
トルコ
ラク…別名「獅子の乳」
ブドウから作られる蒸留酒で、アニスで香り付けられています。無色透明ですが、水を加えると水に溶けない成分が析出して白く濁るため、トルコ語で「獅子の乳」を意味する「アスラン・スュテュ」とも呼ばれています。
アルコール度数は45〜50%。前菜(メゼ)と共に食前酒として飲まれます。ラクはギリシャの「ウーゾ」、東地中海の「アラック」と原材料が同じで、これらも食前酒として飲まれています。
トルコでもワインが生産されていますが、その多くでラクが作られています。
ブルガリア
ラキヤ…発酵させた果実で造る蒸留酒
アルコール度数は40〜60%。スモモで造られるものは「シュリヴォヴィツァ」、ブドウで造られるものは「グロズドヴァ」または「グラッパ」とも呼ばれています。
ブルガリアを始めとしたバルカン半島諸国で造られ、スモモやブドウのほか、アンズ、モモ、ナシ、リンゴ、イチジク、サクランボ、マルメロなどさまざまな果物で造られます。また、何種類かの果実を組み合わせたものや、蒸留後した後にハーブ、ハチミツ、スミミザクラ、クルミなどで味がつけられているものなど、多くの種類があります。
コラム 「リキュール」とは?
リキュールとは、蒸留酒(スピリッツ)に果実やハーブなどを加えて香味をつけ、砂糖や着色料などを添加した混成酒のことです。 現在のリキュールの原型が作られ始めたのは、11〜13世紀のヨーロッパ。11世紀に錬金術師が「生命の水」を意味する「アクア・ヴィテ」という蒸留酒を造りました。アクアヴィテは薬酒として一般に広まり人々に愛飲されたため、この頃から本格的なリキュールの開発が始まったとされています。13世紀には、バラ、レモン、オレンジフラワーなどの成分を蒸留酒に抽出したリキュールが作られました。 初期のリキュールは薬酒として扱われていたため、その製法は修道院に伝えられていきました。修道士たちは薬草などを集め、リキュールの開発を行ないました。ヨーロッパでは現代でも薬草リキュールの開発が盛んです。
ポーランド
スピリタス…アルコール度数96%、消毒液としても使われるウォッカ
世界一アルコール度数の高いお酒として知られている。成分のほとんどが純粋なアルコールでライターやタバコなどの小さな火でも引火することがあるため、日本では「第4類危険物」に分類されています。
原料はジャガイモと穀物ですが、蒸留を70回以上繰り返すことで96度という高いアルコール度数になります。蒸留でそれ以上の純度に精製することも不可能なのだそう。口に含むと、刺すような痛みと熱を感じたあと、甘さを感じます。
ポーランドではウォッカと別の種類の酒とみなされ、果実酒を作ったり、水やソーダで割って飲まれるほか、消毒薬として家庭に常備されています。
モンゴル
馬乳酒…カルピスのような味の低アルコール飲料
馬乳を原料とした醸造酒で、夏に造られます。アルコール度は1〜2%ほどで、馬乳に含まれる「乳糖酵母」による発酵と「エタノール産生型乳酸菌」に由来します。
発酵と同時に乳酸菌による「乳酸発酵」されることから、pH4〜5程度の強い酸味が生まれます。また、発酵時に二酸化炭素ガスが発生するため、微発泡性になります。
カンボジア
ヤシ酒…ヤシの樹液を発酵させた醸造酒
パーム・ワイン(Palm wine)とも呼ばれます。アルコール度は約5%。醸造酒を蒸留して作ったヤシ酒もあり、カンボジアだけでなく、東南アジア諸国やアフリカの赤道付近でも造られています。
ハワイ
オコレハオ…ハワイ独自の蒸留酒
アルコール度約40%、「ティー」の木の根から造られるハワイの蒸留酒です。ハワイ王朝以前の古代から造られていたといわれています。ティーの根を焼き、よくすりつぶしてから発酵させて蒸留したもので、一般的なものは薄く黄みがかった色をしていますが、高級なオコレハオは無色透明。ウイスキーのような風味があります。
ティーの木は高さ2~3m、葉は長さ50cm、幅15cmと大きいため、物を包むのに使われたり、魔除け兼目隠しとして家屋の周囲に植えられたりしています。
オコレハオの「オコレ」は尻、「ハオ」は鉄という意味があります。捕鯨船に積まれていた鉄の丸い壺を蒸留器として使用した際、2つ並べた様子が尻のように見えたことから、この名前が付いたと言われています。
【参考URL】2020年3月24日アクセス
・「世界のアルコール・お酒の歴史が約2分でわかる」(2015)https://gigazine.net/news/20150911-history-of-booze/
・「世界の珍しいお酒~人気の美味しい名酒の種類~」http://sekainoosake.web.fc2.com
・「アクアビットとは?」http://www.stockholm.co.jp/akvavit.html
・「禁断のお酒−アブサン 解禁から2カ月」(2005)https://www.swissinfo.ch/jpn/-禁断のお酒-アブサン-解禁から2カ月/4484274
・「今週のハワイ語〜オコレハオ」https://www.allhawaii.jp/article/632/
・「オルホ」https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オルホ
・「アルマニャック」https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アルマニャック_(ブランデー)
・“AIRAG (KOUMISS) AND DRINKS IN MONGOLIA” http://factsanddetails.com/central-asia/Mongolia/sub8_2c/entry-4589.html
・画像出典: Public Domain, Wikipedia, Pixabay, Shutterstock 他
(日刊サン 2020.3.28)