今や、スマホや多くの電子機器にはリチウムイオン電池が使われ、重要な部品となっています。一般にバッテリーは内部にプラス極とマイナス極を持ち、その間に化学反応液(電解液)もしくは固形物質を挟みます。これで電子の流れが発生し、電力を産んでいるのです。この電極には様々な金属が使われてきました。最近はレアーアースが主流になったようですが、原料を海外に頼り、価格だけでなく採石、精錬などの過程で環境問題を引き起こしています。また、リサイクル技術も不十分のようです。
今回紹介するのは「マグネシウム電池」というものです。乾電池ではなく、自動車用のを想像すると良いかも知れません。電極としてマグネシウムを使うのですが、電気化学反応が進むと酸化マグネシウムになります。酸化マグネシウムはレーザー照射することで、酸素と元のマグネシウムに還元できます。また、材料は採石法もありますが、実は海水中に多く含まれているのです。海水の淡水化の副産物としてマグネシウムが採集されるのです。CO2を大量に出さずにバッテリを生産し、リサイクルも出来るものなのです。生産とリサイクルに太陽光発電と太陽光レーザーを利用すれば、完全なる再生可能エネルギーが可能で、多くの研究が始まっています。
さて、試作品は東京の「ジー・スリーHD」という会社が作ったもので、災害時や夜間の緊急時に備えるもので、樹脂製の筐体(幅16.3/奥行き23.7/高さ9.7センチ)で、内部をスペイサー(プラス極とマイナス極を仕切る部材)で区切り、不織布に納めた薄いマグネシウムのシートを12枚を挿入するようになっています。マグネシウムがマイナス極として、炭素系素材のプラス極と共に化学反応から電気エネルギーを取り出します。化学反応を起こす電解液は塩水ベースで、これは水道水を加えて使うことが出来るようです。つまり、バッテリーを使うときにマグネシウムのシートを装着し、そこへ水道水を加えると電気が発生するのですが、注水後の重さは約2キロ、最大出力は250ワットになり、電池を複数連結するとさらに大きな電力が得られるといいます。
マグネシウムは、これまでは原料のドロマイト鉱石から精製されてきたのですが、大量の石炭を使うので脱炭素化には全く貢献しないどころか、環境破壊の権化でした。しかし海水には約1800兆トン位含まれているので、淡水化装置でマグネシウムは簡単に取り出せるのです。太陽光発電を使い、海外の資源に頼らず、しかも必要に応じてリサイクルできます。マグネシウム電池はエネルギー密度が高く、同じ重量のリチウムイオン電池に比べて約8.5倍の発電量、将来性が非常に高いのです。
一旦酸化したマグネシウムのシートはレーザー照射処理を行い、新しいシートに生まれ変わるのですが、問題は金属材料そのものはリサイクル可能でも、電池自体は再充電が出来ないことです。価格は筐体とマグネシウムのシート60枚入りのセットで13万5000円。災害時などの非常用電源として地方自治体、建設現場の夜間工事用として建設会社などから引き合いがあるそうです。
No.301
となりのおじさん
在米35年。生活に密着した科学技術の最新応用に興味を持つ。コラムへのコメントは、 [email protected]まで
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