鮮魚売り場に“クリオネ”
今回は製品ではなく、今日本で大人気の商品紹介です。しかも、それは生き物なのです。パタパタ…パタパタ…と薄衣の袖を振って遊ぶ子供のように泳ぐ「クリオネ」なんです。その泳ぐ姿から「流氷の天使」「流氷の妖精」などと呼ばれています。毎年1月から3月頃に北海道網走の水産業者が少量出荷しているのですが、この1、2年のコロナ渦で観賞用として大人気なのだそうです。
販売しているのは東京や大阪など、都市部のスーパマーケットの鮮魚コーナーだというからちょいと驚くではありませんか。それが、買い物中におばあちゃんや女子中高生がちょっと様子を見て、孫に見せたいと買ったり、写真を撮ったり。
スーパーの責任者は当初、「食べられるわけでもないのに!」と、仕入れ担当を馬鹿だと叱ったそうですが、今や結構な話題になってSNSでもよく取り上げらるんだそうです。
この店では一瓶に3匹入って1480円。もちろん生きています。クリオネは2〜3ヶ月くらい、1℃〜5℃程度の冷蔵庫内で生きると言われています。
クリオネは巻貝(ハダカカメガイ科)の仲間で、北極に近いオホーツク海などに生息しています。それが寒流に乗って日本の近海までやってきます。その生態はまだ分からないことが多いのですが、自然界ではミジンウキマイマイというさらに小さい半透明の巻貝を常食としています。クリオネは捕食自体が稀なことらしく、2~3ヶ月なら餌なしで生きるそうです。
残念なことに餌のミジンウキマイマイは非常に入手困難で、飼育中に餌をやることは難しいので、ただ瓶を冷蔵庫に入れておき、時々スポイトで排泄物を吸い出すだけの世話になります。海水全体を入れ換えると、逆にダメになることがあるそうです。
クリネオの研究を続けている東京農大の蛯名先生によると、餌を一切食べずに、冷蔵庫の中で1年以上も生きた個体もあったそうです。あ、そうそう、大きさは数ミリと小さいです。北極海付近では10cmくらいまで成長するものもあるそう。
北の湖では流氷が溶けると姿を消すという「儚い生命」だというのに、はるばると都会に来て、人々の目を楽しましてくれます。小さな体を一生懸命パタパタさせて泳ぐ健気な姿に励まされるのだそうです。
No.288
となりのおじさん
在米35年。生活に密着した科学技術の最新応用に興味を持つ。コラムへのコメントは、 [email protected]まで
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