ベンチャー企業、初出勤!
(前回まで) 「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、会社が急きょ経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。その後メガバンク勤務を経て、新たなライフワークに取り組むため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた。
「おはようございます。本日からお世話になります小久保と申します。今までは損保とメガバンクでマーケティングを担当してまいりました。一日でも早く皆様の戦力になれるよう努力してまいります」。渋谷の明治通り沿いにあるビルに入居するこのベンチャー企業の本社メインフロアで、全社員の前で意気揚々と入社の挨拶を行った。2006年2月1日朝のことだった。
続けて人事部長に連れられ主要人物への挨拶周りをすることとなった。まず向かったのは社長室。“この会社に賭けて大丈夫か?”という不安を払しょくしてくれた張本人は、私を見ると「よろしく頼むな」と右手を差し出してきた。面接の時に“親分”という印象を強く受けたが、この右手を握り返したことで私は名実ともに“子分”となった。
続いて向かったのは営業担当の専務。とにかく仕事に対する信念が強い人で、それをそのまま入社面接の際にぶつけられた。価値観の相違から衝突するケースもあるだろうとその時思ったが、共感するところの方が多いし、何しろ真っ直ぐなところが素晴らしい。ゆえにこの会社への入社意向が高まったのだった。専務の席には、専務に向かって覆いかぶさるように話している大男がいた。人事部長が申し訳なさそうに間に入ると、私に気付いた専務が、「営業部長が小久保さんと会いたがっていたよ」とその大男を紹介してくれた。この営業部長ともすぐに打ち解け無二の仲となっていく。
一巡して自分の席に戻ると、直接の上司となる常務が朝一番の会議から戻っていた。入社面接時の第一印象は気難しそうな人。その印象を持ちつつ「本日よりお願いいたします。」と挨拶したところ、その小柄な体から出たとは思えないほどの声量で「待っていたよ。」と返された。なお、この方とは当初の印象に反して非常にウマが合い、“私の最高の上司”の座を一番初めの上司と共に争うことになる。
翌朝。出勤と共に経営企画室の同僚となる女性を紹介された。彼女は病明けで週3日の勤務を行っていたのであるが、実は慶應からこの会社の親会社である大手電機メーカーに入社、同社の経営企画室にて働いていた才女であった。後日談になるが、この女性はこの時から15年たった現在も私の右腕として共に働いている。
今まで築いた金融でのキャリアはもう捨てた。年収はメガバンク勤務時の半分にまで下がる。そこまでしてでもチャレンジする価値はある。新しい仲間たちへの挨拶は、そんな私の一世一代の大博打に対する決意表明でもあったといえる。
(次回につづく)
No. 176 第3章 「再挑戦」
Masafumi Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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