毎年10月に入ると、街はカボチャのランタン、骸骨やオバケのオブジェで華やかに飾り付けされる。本来はウキウキするはずのハロウィンだが、近づくにつれ憂鬱になってしまう。10月31日は、好きだった俳優の命日だからだ。
主人公マイク(リヴァー・フェニックス)は家族も住居もなく、男娼として路上生活をしている。さらに突発的に眠ってしまうナルコレプシーという持病があり、目覚めると知らない道端に倒れていることも多く普通の生活を送るのが困難だ。そんな彼を、仕事仲間であり想いを寄せる親友でもあるスコット(キアヌ・リーヴス)がたびたび介抱をしてくれる。幼い頃に自分を捨てた母親に会いたい一心で遠くローマへ行く時も、スコットは一緒について来てくれるのだが・・・。
マイクの置かれた境遇を考えると気が滅入りそうな内容が、全体を通して不思議と心地が良い。
それは、所々に流れるのどかな音楽やアイダホの豊かな自然の映像のおかげでもある。そして何より、マイク自身も周りの仲間たちも楽しげに青春を謳歌しており、あまり物憂げな様子ではないのだ。ただ、スコットへの恋心と、母親を思い出して時折見せる寂しげな表情が切なく、もどかしくて仕方ない。せめて抱きしめてくれる誰かが側にいてくれたら、と。
LGBTの概念が浸透してきた昨今でも、性的嗜好について語るにはまだ困難が多い。三十年近く前の作品だが、主人公がゲイであることを必要以上に強調せず、その日常をごく自然に描いている点はもっと高く評価されて良いのではないだろうか。
どこまでも続く一本道に立ち尽くすマイク。いつもの発作を起こし、ゆっくりと倒れこんで映画は唐突に終わる―まるで演じたリヴァー本人の最期のように。
1993年のハロウィンの夜、彼はハリウッドのサンセット通りで薬物の過剰摂取により亡くなった。端正な顔立ちやその早死が取り沙汰されがちだが、彼の繊細な演技は今もきらりと光っていて色褪せていない。若い世代の方達にも広く知ってもらえればと思う。
加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/今年のハロウィンはトリックオアトリートなし、仮装もオンラインになりそうですね。去年は派手にやったので寂しいなぁ。
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