“引っ張る”車椅子で移動を楽に
東京オリンピック・パラリンピックを契機に、バリアフリーの社会を目指す予定でしたが、予定外のコロナ渦により、オリンピック・パラリンピック自体は延期になりました。社会インフラとしてのバリアフリーは是非実現しなければいけませんが、一方の側、たとえば、車椅子も進化する必要があるでしょう。
さて、今回紹介しますのは、通常の車椅子を人力車に変える装置です。荷車でも自動車でも、後ろから押すよりも、前で引く方が方向性と揺れなどが格段に安定することは周知の事実です(雪国用の自動車は前輪駆動が多い。四輪駆動車は理想ですが)。これは、車椅子でも同じで、災害時の避難や、坂道や段差があっても、押すよりも引く方が効率的です。
長野の会社が「JINRIKI クイック」という、市販の車椅子に簡単に着脱できる装置を開発しました。この装置は、ステンレスとアルミでできた長さ1メートル程のL字形の2本の棒から構成され、車椅子の前部左右のパイプに取り付けます。この棒の先を持ち、引手として介助者が引っ張るのです。てこの原理により、女性や子供でも楽に、前輪を浮かせて進むことができ、段差なども容易に通過できるんです。
災害時に自力で逃げられない人が、素早く避難できることを目指しています。車椅子を利用者自身が漕ぐ際や、介助者が後ろから押す場合は、わずか1センチほどの段差でも、車椅子の小さい前輪が引っかかって進みにくく、地震などで道が凸凹になった場合など、避難を諦めることも多いのです。階段を上り下りする場合は通常、4人くらいで持ち上げなければいけないところ、この装置を使えば2人の介助で、階段も移動できます。
開発の動機は、都心などはバリアフリーを目指せばよいが、地方などではなかなか進まない。そこで、バリアフリーが実現できないならば、車椅子のほうを移動しやすくすれば良いと考えたのだそうです。
現在、全国50以上の自治体に5000セット以上、納入されており、それぞれの地域の希望者に無償貸与されているそうです。
この「JINRIKI クイック」は5万5千円ほどで販売されています。名古屋の名鉄百貨店にショールームがあり、装置の展示と、実際に、段差などを移動する体験も出来るようです。また、この装置をつけた車椅子で、登山などを楽しむ様子の映像なども紹介されています。災害時に、自力で逃げられない障害者が避難を諦め、犠牲になるのを防ぐことができそうですね!
No.274
となりのおじさん
在米35年。生活に密着した科学技術の最新応用に興味を持つ。コラムへのコメントは、 [email protected]まで
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